優羽からの返信は次の日も来ることがなかった。本当はわかっていた。あんなメッセージを送ってそれでも繋がりたいと思われるほど優羽にとって私が重要では無いことも。
わかっていた。きっと嫌われてしまうことも。
それでも返信すらしたくないほど嫌われてしまったと改めて感じてまた涙が溢れてくる。縁を切ったはずなのに、もう繋がることなんてできないのに、私はどうしても優羽のことが好きで好きで堪らなかった。
大丈夫、もう縁は切ったから。バレることは無いのに。望んでいたはずなのにどうしても苦しくて、辛くて、胸を締め付けられているようで。
結局私は優羽のことをブロックする事なんて出来ずに昔のトーク画面を眺めては泣きそうになっていた。
『きっと貴方はこんな私を嫌うでしょう。それでも私はずっと貴方を思い続ける』
『明日10時、いつもの場所で!』
私のメッセージに返された了解のスタンプを下に流しながらさっきまでの会話がおかしくなかったか確認する。
きっと少しおかしくてもあの子、髙木 杏莉はスルーするだろうし受け入れてくれるだろう。それでも心配なものは心配で。
なにか誤解を与えるようなものは無いか、意味の通らないものは無いかしつこいくらいに見直すとスマホを閉じた。
明日杏莉と会えると思うだけで楽しみで心が弾む。
杏莉には安心して本音を言えるし一緒にいると楽しいし落ち着く。
否定しないでそのままの私を受け入れてくれる唯一の友達。中学に入って新しい友達も多くできたけれど杏莉以上に思える子は1人もいなかった。
明日はどこを回ろうかな。どんなことを話そうかな、なんてわくわくとしながら私は眠りについた。
「お姉ちゃん今日出かけるの?」
朝ごはんを食べていると2個下の妹、結衣が聞いてくる。
「杏莉と遊ぶ約束してるの」
「杏莉ちゃんと?!いいなー!」
杏莉とは小学校が一緒でその時から遊んでいたので結衣も知っているし仲良くしてもらっている。
「一緒に行きたいー‼️」
「結衣は美桜ちゃんと遊ぶんじゃなかったっけ?」
美桜ちゃんというのは結衣の友達で今日遊ぶ約束をしているらしい。
「そーだけどさぁ、久しぶりに会いたいもん!」
「また今度ね」
「わかってるよーだ」
時間を見るとそろそろ用意をし始めた方がいい時間だったので急いで朝ごはんを食べきり、荷物の用意を始めた。
杏莉にもうすぐ会えるというだけで思わず口角が上がってしまうのを感じつつ急いで荷物を詰めていく。
「行ってきます‼️」
「行ってらっしゃい」
『深瀬』と書かれたドアを開け私は杏莉との待ち合わせ場所に向かった
少し急ぎ足で向かった先には杏莉の姿が。
少し髪が短くなっていて後ろ姿だけだけれどすぐにわかった。
まだ気づいていなさそうな杏莉に声をかける。
「おーい!杏莉!」
「優羽!久しぶり!」
気がついた杏莉が手を振っている。
久しぶりに杏莉に会えた事で気持ちが上をむく。もししっぽが付いていたらきっとちぎれんばかりに振っている気がする。
「久しぶり!杏莉、今日どこ行く?」
結局自分ではどこに行くか決まらなかった私は杏莉にそう聞いてみる。
「優羽はどっか行きたいとこある?」
杏莉は毎回、私にきちんと聞いてくれる。
律儀だなぁなんて思うと同時に気遣ったりしなくていいと思ってもらえるくらい特別な存在になりたいなんて思ったりもする。
今日は本当にどこに行きたいかなんて決まってないからそれを伝えると駅前のショッピングモールに行かないかと提案される。
「いいね!それ」
2人でショッピングなんて楽しいに決まってる。
「じゃ、行こうか」
「うん、行こ」
2人で並んで歩き出す。
「あ、杏莉聞いてよ!」
久しぶりに会ったんだもん。話したいこと、聞きたいことは沢山あるんだ。
のんびりと話しながら行こうか、なんて言う代わりにバス停とは反対側の道路を歩きながら私は話し始めた。
2人でアクセサリーを見ているとあるアクセサリーが目に止まった。
それは淡い黄色をした雫型の石がついたイヤリングだった。とても優しい色をしていて杏莉に似合いそうで。
これをつけた杏莉を見てみたい。
「このアクセ可愛い!杏莉に似合いそう!!」
言いながら振り返ると意外と近くて少しびっくりしてしまう。
一歩下がって杏莉を見ると少し赤くなって照れてる杏莉が目にはいる。
杏莉が照れているのが少し珍しくて、とっても可愛くて、思わず笑みがこぼれた。
照れを隠すように商品を見ている杏莉が呟く。
「あ、これ優羽に似合いそうだな。」
近ずいてみるとそこにはさっきのイヤリングと同じデザインの色違いがあった。淡い紫色が綺麗だ。
ふと思いついた私は杏莉に声をかける。
「そーだ!杏莉、これお揃いで買わない?」
どっちも可愛いしお揃いのアクセサリーを着けられたら何となく、特別に近づく気がして。
「いいね。そうしよ!」
杏莉も乗ってくれたので2人でイヤリングを持ってレジへ並んだ。
店を出て早速イヤリングをつけてみる。
耳元で淡い黄色が光る杏莉はとても綺麗で、可愛かった。
「優羽似合ってるよ。可愛い!」
似合ってると伝えようと口を開いたとき、先をこされて杏莉がそう言う。
「ありがと!杏莉も似合ってるよ!!」
やっと言えると杏莉から少し照れた声でありがとうと返される。
杏莉とは久しぶりに会うけれどこんなに可愛かったっけ?
確かに杏莉は自分では気づいていないけれどとても綺麗だ。今日もそれは変わらない。でも、そうではなくて。特別可愛く感じるのはただの気のせいだろうか。
そんなことを思いながら2人でカフェに向かった。
「またね!」
「うん、またね!」
楽しい時間はあっという間にすぎていく。
曲がり角で杏莉と別れ、今日のことを思い返しながら家へと向かう。
何故か今日は普段と少し違った気がした。
なんとなく、杏莉が可愛く見えるような、どきどきするような。いや普段から杏莉は可愛いのだけれど。
いつも杏莉といると楽しいし面白いけれどそれとは違った感覚のような。
感じたことの無いような感覚がなんなのか、不思議に思いつつ家に入った。
「ただいまー」
「ゆう、おかえり。杏莉ちゃんと遊んでたんでしょ?どうだった?」
「楽しかったよ!」
お母さんと軽く話しながら自分の部屋に戻った辺りでスマホの通知音がなる。
確認すると杏莉からだった。
『今日はありがとね!めっちゃ楽しかった!!』
杏莉も楽しんでくれていたことに喜びつつ、わざわざ毎回律儀に連絡しなくてもいいのになんて思ってしまったりもするけれど。
さっきまで会っていたというのに杏莉とのメッセージでのやり取りにとても嬉しくなっている自分に気づいて杏莉の存在の大きさを再確認した気がした。
「優羽おはよう!」
「仁香おはよう!」
同じクラスの友達の仁香と話しながら下駄箱へ向かう。
「あ、奈々美!それに陽菜もおはよう!」
「仁香、優羽おはよう」
そこに奈々美と陽菜も合流して4人で教室へ向かう。
「今日の授業って何があったっけ?」
すると奈々美が答えた。
「英語あった気がするよ
あとは、なんだっけ?」
「奈々美、英語あるの今日じゃなくて明日だよ…」
しっかり者の仁香が呆れつつ突っ込む。
「え!そうなの?!」
「大丈夫かよ…」
他にもいろいろと話しながら教室へ。
しばらくすると先生が入ってきて学活、授業が始まった。
「ねぇ、聞いてよー。今日電車にめっちゃかっこいい人いてさ、」
昼休み、4人で話していると陽菜がそう言う。
私の学校は私立の女子校なので彼氏を求めて飢えてる子と全く興味のない子、彼氏持ちの3つにほとんどの子がわけられる状況だ。
ちなみに私は恋がよくわかっていないし興味がないタイプだ。
「陽菜もメンクイだよねぇー」
仁香がそう突っ込みながらもどんな人か聞いている。
きっとなんだかんだ興味があるんだろうな、なんて思いながら話を聞いてると恋バナが始まった。
「みんな好きな人いたりするのー?」
「今は居ないかな」
そう答える仁香に陽菜がくいつく。
「今はってことは前はいたの?」
「まぁそれなりには?」
「へー」
やっぱりみんな好きな人がいたりするんだな、なんて思っていると話が振られる。
「優羽は?」
「居ないよっていうか恋がなんなのかわかんないってゆーかんじでさ。みんな好きな人いた事あるみたいだしどんな感じなの?」
「そーだなぁ、ふとした瞬間にどきどきしたり?ほかより輝いて見えたり!」
なんて言う陽菜に奈々美が
「私は一緒にいると楽しいけど落ち着いたりとか」
「人によって違うとこあるよね!」
仁香が続く。
「そういう仁香は?」
「かっこいいけど可愛く見えたりとか?あとその人の特別になりたいかな。」
「なるほどねぇ」
3人が話してるなか考えると、ふと思い出すのは杏莉と遊んだ時のこと。どれだけ人が多くても杏莉のことは見つけられたし杏莉のそばは落ち着ける。
それなのに少しどきどきしていて、いつもより可愛く感じた。
もしかして、なんて思ってすぐに否定する。違う、よね。杏莉のことは大事だし特別だけどそれは友達としてであって…
「優羽?どうかした?もしかして当てはまる子でも見つけちゃった?!好きな子出来ちゃった?!」
少し茶化したように陽菜は聞いてきたけれど。
もしかしたら私は杏莉のことが好きなのかもしれない。急速に顔に血が上るのがわかる。きっと顔も赤くなっているのだろう。
「え、まじで?!誰?同い年?年上?それとも年下?!」
「ちょ、陽菜一旦落ち着けって。」
「ごめん、奈々美。少し興奮しすぎたわ
で、優羽好きな人見つかっちゃった感じ?」
陽菜が私に聞いてくる。
きっとこの人達なら。話を聞いてくれるかもしれない。
「う、うん。もしかしたら、だからわかんないけど…」
初めての感覚にわからないまま答える。
「どんな人なの?その人といるとどんな感じ?」
仁香がここぞとばかりに聞いてくる。
「えっと、可愛いんだけどかっこよくて、人一倍気を使っちゃう子で。でも私の前ではそんな事しなくてもいいのにって思ってる。一緒にいると落ち着くけど楽しくてずっと一緒に居たいなって。」
勇気をだして正直に言ってみる。
同い年だけれど恋に関してはきっと3人の方が先輩だから。
「うわぁーいいねぇ。初々しいねぇ」
「いや奈々美は何目線なのよw」
「その子との関係は?」
「えっと、友達?」
何も分からないまま正直に答える。
「そっかー、いいじゃん!いいじゃん!」
なんて盛り上がってるとチャイムがなる。
「あ、やば!まぁなんかあったら言ってよ!相談のるからさ。」
「ありがとう!」
相談できる先輩がいるのはとても心強く感じて。この3人と友達で良かったと改めて感じた。
家への帰り道、歩きながら考える。
私はいつから杏莉のことが好きなのだろう。わからないけれど、こないだ会った時にはきっともう好きだったのだろう。
気づいてみればこの感情が大きくなるのもあっという間だった。
でも、相手は同性で友達だ。
きっと杏莉の事だからちょくちょく連絡をくれるだろう。でもそれにいつも通りに返信できる自信はない。
だけど同時に、メッセージのやり取りで自分の感情が本物なのかを確かめたいとも思った。
同性愛。日本ではまだ少数派であまり認められていなかった、気がする。
まさか自分が当事者になるなんて思わなくて。
少し驚いているけれど嫌な感じはしないし、そこまで気にしてもいない。
でも、杏莉に知られたらどうなのだろう。
杏莉がどう思うかはわからないし、仮に嫌悪感を持っていなかったとしても気まずくなるだろうしもう遊べなくなるだろうな、なんてことは安易に想像出来てしまって。
どうやら私はなかなかに難しい恋をしてしまったみたいだった。