たとえ貴方が私のことを嫌っても

諦めようと決めてもう半月が経っていた。
それでもまだ私は優羽を諦められそうになかった。どうしよう、なんて考えているとスマホが鳴った。
『杏莉、大丈夫?最近連絡無いけどなんかあったの?』
珍しく優羽から来たメッセージ。
ああどうして、たったこれだけなのにどうにも心が踊ってしまう。
どうして、諦めようとしてるのにこんな事送ってくるんだよ。
今の私にとって優羽からの連絡は、優羽を思い起こすものは、甘美でそれでいて強力な毒のようだった。
ダメだ、諦めるって決めたんじゃないか。
でも返信しないと、でもそんなことしたら諦められなくなりそうで。
大丈夫、まだトークは開いてない。見た事がバレることは無い。 だから、

私は初めて優羽からのLINEに返信しなかった
「杏莉、大丈夫?」
昨日は優羽からのメッセージのせいでなかなか寝付けなかった。
みのりにまで心配されるとは、そんなに顔に出てるのだろうか、いやみのりは普段少し抜けているとこがあったりしても実はとても鋭かったりするから。
「大丈夫だよ。昨日暑くてなかなか寝付けなくてさ」
「確かに最近暑いよねぇ
でも、無理しちゃダメだよ?なんかあったらいつでも言ってね!」
「ありがとね」
1ヶ月、心の中では悩んでいても学校では完全に隠していつも通りの私を演じられていたと思う。
誰かに言ったりしたら、どこからその話が漏れるかなんてわからないから。
市立校に通っていることもあって同じ小学校の人は多く私も優羽も繋がっている人が多くいる。
別にみのりやともかを信頼してない訳ではないけれど、相談するなんてことは選択肢に入っていなかった。
ごめんね、2人とも。きっとこの事を2人に相談する日は来ないんだ。気にかけてくれているのに私はなかなか、誰かを信じられないから。
でも大丈夫、2人を傷つけないように、しっかり解決するからね。
でもどうしよう。諦めようと決めて1ヶ月も経ったはずなのに逆にどんどん思いは増して、きっと優羽に今会えばバレてしまいそうな位だった。優羽に会わなくていい方法、連絡しなくていい方法は、諦められる方法は何なのだろうか。
「諦めないとなのはわかってるんだけどさ、どうしたらいいかな?」
「うーん、もういっそ告白して振られちゃえば?」
「それが無理だって言ってんの!」
偶然、どこかの教室から聞こえてきた声。
なんだろう。私と重なる部分がある。きっと全然違うけれど。
なんとなく動けずに聞いていると、また別の声が聞こえてくる。
「それかさ、縁切っちゃえば?‪w」
きっとその子はふざけて言ったのだろう。でも私にとっては全く見ていなかった選択肢で、でも今の状況を全て変える方法で。
そうすれば良いのか、なんて悩みすぎておかしくなった脳は最適解として受け入れていた。
家に帰るため私は自分の教室に向かって歩き出した。
久しぶりに優羽とのトーク画面を開いた気がする。
優羽から連絡があったあと、私はスルーしていたのに時々連絡が入っていて、通知をオフにしていて良かったと心から痛感した。
今からやることは優羽と私の今までの関係を全て崩す事だ。きっともう会えなくなるし話せなくなる。優羽の笑顔を見ることは無くなるんだなんて思うと自然と指が震えてきて。自分で決めた事なのにどうしてもやっぱり怖い。
でも、やらなきゃいけない事だから。優羽を、私を、傷つけないために、傷つかないために。
震える手で文字を打っていく
『もう優羽のこと嫌いになったから
てゆうかずっと嫌いだったから
もう連絡してこないで
まぁブロックするから意味無いけどね
さよなら』
これを送ってしまえばもう優羽と今まで通り遊ぶなんて、話すなんて出来なくなるのに、打つ時はあんなに時間がかかったはずなのに送ってしまうのは一瞬だった。
震えている指のせいで思わず送信ボタンを押してしまった。
すぐに既読が着いたことでもう戻れないと痛感する。
どんな返信が来るのだろう。そもそも返信なんてしてくれるのだろうか。
自分で決めたはずなのに目頭が熱くなってきて。思わず1滴溢れたかと思うとそれを引き金に後から後から熱い雫がこぼれ落ちて私の視界を、取り返しのつかないトーク画面を濡らしていく。いっその事この雫がこの文字を、流して消し去ってしまえばなんて思ったりもしたけれど。何故か私は送信を取り消すことは出来なかった。
10分近くたったのだろうか、涙が収まって、滲まなくなった視界で確認するとまだ返信は来ていなかった。
これ以上見ているのはきつくてスマホを閉じる。何となく見た 窓の外は私の心情とは似ても似つかないどころか真逆の綺麗な晴れ模様で。それがまるで私は主人公じゃなくて、誰かと結ばれるなんて無理だと言われているようで思わず目をそらす。
何もやることがないままお母さんに呼ばれるまでずっとベッドの上で座り込んでいた。
優羽からの返信は次の日も来ることがなかった。本当はわかっていた。あんなメッセージを送ってそれでも繋がりたいと思われるほど優羽にとって私が重要では無いことも。
わかっていた。きっと嫌われてしまうことも。
それでも返信すらしたくないほど嫌われてしまったと改めて感じてまた涙が溢れてくる。縁を切ったはずなのに、もう繋がることなんてできないのに、私はどうしても優羽のことが好きで好きで堪らなかった。
大丈夫、もう縁は切ったから。バレることは無いのに。望んでいたはずなのにどうしても苦しくて、辛くて、胸を締め付けられているようで。
結局私は優羽のことをブロックする事なんて出来ずに昔のトーク画面を眺めては泣きそうになっていた。

『きっと貴方はこんな私を嫌うでしょう。それでも私はずっと貴方を思い続ける』
『明日10時、いつもの場所で!』
私のメッセージに返された了解のスタンプを下に流しながらさっきまでの会話がおかしくなかったか確認する。
きっと少しおかしくてもあの子、髙木 杏莉(たかぎ あんり)はスルーするだろうし受け入れてくれるだろう。それでも心配なものは心配で。
なにか誤解を与えるようなものは無いか、意味の通らないものは無いかしつこいくらいに見直すとスマホを閉じた。
明日杏莉と会えると思うだけで楽しみで心が弾む。
杏莉には安心して本音を言えるし一緒にいると楽しいし落ち着く。
否定しないでそのままの私を受け入れてくれる唯一の友達。中学に入って新しい友達も多くできたけれど杏莉以上に思える子は1人もいなかった。
明日はどこを回ろうかな。どんなことを話そうかな、なんてわくわくとしながら私は眠りについた。
「お姉ちゃん今日出かけるの?」
朝ごはんを食べていると2個下の妹、結衣(ゆい)が聞いてくる。
「杏莉と遊ぶ約束してるの」
「杏莉ちゃんと?!いいなー!」
杏莉とは小学校が一緒でその時から遊んでいたので結衣も知っているし仲良くしてもらっている。
「一緒に行きたいー‼️」
「結衣は美桜(みお)ちゃんと遊ぶんじゃなかったっけ?」
美桜ちゃんというのは結衣の友達で今日遊ぶ約束をしているらしい。
「そーだけどさぁ、久しぶりに会いたいもん!」
「また今度ね」
「わかってるよーだ」
時間を見るとそろそろ用意をし始めた方がいい時間だったので急いで朝ごはんを食べきり、荷物の用意を始めた。
杏莉にもうすぐ会えるというだけで思わず口角が上がってしまうのを感じつつ急いで荷物を詰めていく。

「行ってきます‼️」
「行ってらっしゃい」
深瀬(ふかせ)』と書かれたドアを開け私は杏莉との待ち合わせ場所に向かった
少し急ぎ足で向かった先には杏莉の姿が。
少し髪が短くなっていて後ろ姿だけだけれどすぐにわかった。
まだ気づいていなさそうな杏莉に声をかける。
「おーい!杏莉!」
「優羽!久しぶり!」
気がついた杏莉が手を振っている。
久しぶりに杏莉に会えた事で気持ちが上をむく。もししっぽが付いていたらきっとちぎれんばかりに振っている気がする。
「久しぶり!杏莉、今日どこ行く?」
結局自分ではどこに行くか決まらなかった私は杏莉にそう聞いてみる。
「優羽はどっか行きたいとこある?」
杏莉は毎回、私にきちんと聞いてくれる。
律儀だなぁなんて思うと同時に気遣ったりしなくていいと思ってもらえるくらい特別な存在になりたいなんて思ったりもする。
今日は本当にどこに行きたいかなんて決まってないからそれを伝えると駅前のショッピングモールに行かないかと提案される。
「いいね!それ」
2人でショッピングなんて楽しいに決まってる。
「じゃ、行こうか」
「うん、行こ」
2人で並んで歩き出す。
「あ、杏莉聞いてよ!」
久しぶりに会ったんだもん。話したいこと、聞きたいことは沢山あるんだ。
のんびりと話しながら行こうか、なんて言う代わりにバス停とは反対側の道路を歩きながら私は話し始めた。
2人でアクセサリーを見ているとあるアクセサリーが目に止まった。
それは淡い黄色をした雫型の石がついたイヤリングだった。とても優しい色をしていて杏莉に似合いそうで。
これをつけた杏莉を見てみたい。
「このアクセ可愛い!杏莉に似合いそう!!」
言いながら振り返ると意外と近くて少しびっくりしてしまう。
一歩下がって杏莉を見ると少し赤くなって照れてる杏莉が目にはいる。
杏莉が照れているのが少し珍しくて、とっても可愛くて、思わず笑みがこぼれた。
照れを隠すように商品を見ている杏莉が呟く。
「あ、これ優羽に似合いそうだな。」
近ずいてみるとそこにはさっきのイヤリングと同じデザインの色違いがあった。淡い紫色が綺麗だ。
ふと思いついた私は杏莉に声をかける。
「そーだ!杏莉、これお揃いで買わない?」
どっちも可愛いしお揃いのアクセサリーを着けられたら何となく、特別に近づく気がして。
「いいね。そうしよ!」
杏莉も乗ってくれたので2人でイヤリングを持ってレジへ並んだ。
店を出て早速イヤリングをつけてみる。
耳元で淡い黄色が光る杏莉はとても綺麗で、可愛かった。
「優羽似合ってるよ。可愛い!」
似合ってると伝えようと口を開いたとき、先をこされて杏莉がそう言う。
「ありがと!杏莉も似合ってるよ!!」
やっと言えると杏莉から少し照れた声でありがとうと返される。
杏莉とは久しぶりに会うけれどこんなに可愛かったっけ?
確かに杏莉は自分では気づいていないけれどとても綺麗だ。今日もそれは変わらない。でも、そうではなくて。特別可愛く感じるのはただの気のせいだろうか。
そんなことを思いながら2人でカフェに向かった。