「つまりね、勉強ができないって悩む必要はないの。仏さまはきっとあんたを導いてくれるわ。それにね、あんたちゃんと勉強してる?」
「いや、そんなには、してないけど」
「でしょ。中高生の勉強ができないっていうのは、大抵勉強不足が原因なの。だからね、しっかりと一日一時間と決めたら、その時間はしっかり勉強する。それだけで、結構効果があるはずだから」
「それができれば苦労しないよ。勉強するのが面倒なんだ」
 すると、知立さんはムッとした表情を浮かべた。
「あんた、あたしの説法を踏みにじるのね」
「え? せっぽうって?」
「はぁ、あんたそんなのも知らないの、これは重症ね。説法っていうのは、仏教の教えを説き聞かせるって意味よ。覚えておきなさい。それに、あたしがありがたい説法を聞かせてあげたんだから、感謝しなさいよね」
 感謝すると言っても、向こうから勝手に言ってきたのだ。
 全く、面倒な女の子だな......。
「あのさ、具体的に俺は何をすればいいの? 助手なんでしょ?」
「そうね、まずはこの学校に浄土真宗の教えを広めたいわね」
「ちょっと待ってくれ、信仰は自由だよ、強要するのはよくない、それにさ、何も知らない人に浄土真宗どうですかって言っても、振り向いてもらえないよ」
「むぅ、まぁ、確かにそうよね。教えを広めるのは難しいわ。だけど誰かがしないと」
「例えば、新聞部に頼んで親鸞聖人のありがたい言葉を毎回一つずつ紹介していったらどうだろう? 校内新聞は読む人も多いし、結構効果あると思うけど」
「あんた、意外といいこと言うじゃないの。そうしましょう。じゃあ、新聞部に頼んで」
「え? それって俺がするの?」
「そうよ。だって助手なんだから。そのくらいしても当然でしょ」
「まぁいいけど。あのさ、俺にメリットはあるの? 何かいいように使われて終わりのような気がするけど」
「心配する必要はないわ。なぜなら、あんたはこれからありがたい浄土真宗の教えを、イヤというほど聞けるんだから。これがメリットじゃなくてなんていうのよ」
 それは、本当に俺のメリットになるだろうか?
 浄土真宗に興味がある方なら、確かにメリットになるかもしれない。
 だけど、俺は仏教には興味ないんだ。
 全くね......。