「だからね。私はパパを認めさせるの」
「どうやって?」
「つまり、浄土真宗を布教していくの。あたしのお寺は浄土真宗本願寺派なの。だから、あたしは浄土真宗のお坊さんになろうとしてるってわけ」
「そう、頑張ってね」
 と、俺は生暖かい声を出す。
 なんというか、付き合うとろくなことにならにないような気がする。
 知立さんは、ルックスがいい。
 美少女と呼べるだろう。
 AKBとか乃木坂とかに入って踊っていても不思議ではない。
 それに容姿もギャルっぽい。
 しっかりメイクしてるし、もちろん、坊主ではない。
 フワフワとした柔らかい明るめの茶色の髪の毛が肩まで伸びて、ツインテールで結んでいる。
 なのに......。
 この子は僧侶を目指している。
 それはかなり不思議なような気がした。
 まったく本を読まないのに、世界文学全集に挑戦するようなものだ。

「悲しきかなや道俗の 良時吉日えらばしめ
 天神地祇をあがめつつ 卜占祭祀つとめとす」

 不意に、知立さんが口に出す。
 また、お経だろうか?
 だけど、リズムが違う。
 何よりも、しっかり日本語が聞こえたよね。
 一体何だろう??
「僧侶も世俗の者たちもね、良い時や良い日にとらわれて、天や地の神様を崇めつつ、占いや祈り事ばかり。これって結構悲しいよね......。って意味。つまり何が言いたいのかわかる?」
 急に問われてもわからない。
 俺はしどろもどろだ。
「イヤ、わからない」
「そうよね、あんたバカそうだもん、だからあたしが教えてあげる。よく聞きなさい。これはね。祈ったり占ったりするのは、その人本来の人生を見失わせる行為って言ってるの。ほら、占いとか好きな子多いでしょ? あんなの信じるくらいなら、親鸞聖人を信じなさいよ」
「それって親鸞さんの言葉なの?」
「そうよ、親鸞さん、つまり、親鸞聖人のね」
 話によれば、親鸞さんという人は、浄土真宗の宗祖らしい。
 だから、知立さんは崇拝しているのだろう。
「で、これからあたしは親鸞聖人の教えを広めるつもり。だからあんた、助手になりなさい」
「はいはい、助手ね、それは大変だ......、って、えぇええぇぇぇぇぇえぇえええー!!」
「そのノリ突っ込みかなりダサいわよ。あんたはあたしの秘密を知った。つまり、助手にならないとならないの」
 どういう理論だ?
 無茶苦茶である。