本当なら、心の底から喜ぶべきなんだろう。
 なのに、俺は嬉しくなれない。
 イヤ、正確に言うと、嬉しいんだけど、心に何かが引っ掛かっている感じなのだ。
 同時に、その引っ掛かりが徐々に大きくなっているような気がした。
 その日、俺は佐伯さんと別れて家路に就いた。

 金曜日――。
 校内新聞が発行された。
 今回から、俺は全く介入していない。
 美沙一人でやったのだ。
 そして、今日も親鸞聖人の言葉が掲載されている。

『明日ありと思ふ心のあだ桜、夜半に嵐の吹かぬものかは』

 それが今日のお言葉だった。
 その下に意味が載っている。

『今を盛りと咲き誇っている桜も、夜、嵐が吹けば、一瞬にして散ってしまう。やるべきことは、できる時にやってしまって、明日、桜を見に行こう、明日やろうという気持ちを、戒めている言葉でしょうね』

 と書かれていた。
 やはり、親鸞聖人は心に響く言葉を言っている。
 やるべきことは今やる。
 たぶん、それは正しい。
 人はいつ死ぬかわからない。
 今日健康でも、明日事故で死ぬかもしれないんだ。
 なら、後悔しないように、できることをすべてやっておきたい。
 でも......。
 それが一番難しいよ。
 それができれば、どれだけ救われるか。
 俺は痛いほどわかった。
 
 休み時間――。
 俺は廊下でぼんやりとグラウンドを見つめていた。
 何というか、最近思い悩むのだ。
 その理由は何となくわかっている。
 そう。美沙だ。
 彼女が関係している。
 俺は、彼女に拒絶されてしまった。
 その理由もわかっている。
 佐伯さんだ。
 俺が、佐伯さんと一緒にいるから、美沙は俺から離れていってしまった。
 それって結構寂しいというか、俺をうっくつとさせるんだよね。
 廊下の向こうに、美沙の姿があった。
 だが、一人ではない。
 彼女には少なからず友達がいるようだったけれど、彼女と一緒にいたのは、女の子ではなかった。
 美沙が一緒にいた男性。
 それは、この高校の生徒会長、二階堂一馬さんだった。
 なぜ?
 どうして美沙が生徒会長と??
 それは、何やら親しげに話している。
 俺には見せない笑顔がそこあるような気がする。
 なんでだよ?
 俺を拒絶しておいて、ソッコー別の男に行くなんて。
 やっぱりギャルだ。
 ビッチだ。