その顔を見ていると、俺もどこかほっこりする。
 恋。
 俺はまだ、それを知らない。
 だけど、その片鱗を感じているような気がする。
 相手のことで頭がいっぱいになる。
 それが恋なのかもしれない。
 けど、俺の脳裏には、美沙のあの顔がちらつくんだ。
 あんな寂しそうな顔をした美沙の顔が、頭から離れないんだよ。
 そんな中、佐伯さんが俺に向かって言った。
「そうだ、榊原君、コレ、昨日見た映画の原作になった小説です。よかったら読んでください」
「ありがとう。読んでみるよ」
「映画、楽しかったですね」
「うん。俺、緊張しちゃって、上手く話せなかったけど、楽しいって言ってもらえてよかったよ」
「そんな、たくさん話せました。映画の後は喫茶店にも連れて行ってくれましたし。私、最高の思い出になったんです」
「そう、そんな風に言ってもらえると、俺も嬉しいかな」
「あ、あの、また一緒にどこか行きませんか?」
「一緒に?」
「はい、イヤですか?」
「イヤじゃないけど......、うん、いいよ」
 俺は、彼女を困らせたくなかった。
 寂しそうな顔をして欲しくなかった。
 俺がここで断るのは簡単だ。
 だけど、そんなセリフを吐けば、佐伯さんは傷つく。
 人が傷つくのは見たくない。
 俺は仏教には詳しくない......。
 けどさ、
 こんな時、親鸞さんなら何て言うんだろう。
 俺は、猛烈に親鸞聖人の言葉が知りたくなった。
 少しずつだけど、仏教に......、イヤ、浄土真宗に惹かれつつあるのだ。
 それはなぜか?
 決まってる。
 美沙の影響だ。
 あの子がいたから、俺は興味がなかった仏教に関心を覚えるようになったんだ。
「榊原君、マリンピア日本海って知ってますよね?」
「え、あ、うん」
「今度一緒に行きませんか? ペンギンとかいるんですよ」
 マリンピア日本海というのは、新潟市の中央区にある水族館である。
 俺も小さいころに何度か行ったよ。
 というよりも、新潟市で暮らす子どもたちは一度は行ったことがあるだろう。
「小さいころいったかな」
「私もです。確かイルカショーとかもあるんですよね」
「うん、握手とかできるんだ。懐かしいなぁ」
「なら、今度行きましょう。二人で行けばきっと楽しいですから」
「う、うん、そうだね」
 俺の昼休みはそんな風にして終わる。

 放課後――。