いきなり知立さんが振り返った。
 そして――。

「誰もが救われる道がある!」

 と、叫んだ。
 は?
 今、彼女は何て言った??
 俺は、正直面を食らう。
 何か衝撃的なことが起こると、人は動けなくなるらしい。
 俺は、根を張ったように動けなくなった。
「今なんて?」
 俺は、何とかそれだけを絞り出す。
 すると知立さんは、
「あんた、親鸞聖人って知ってる?」
「しんらん?」
 深夜アニメのキャラクターだろうか?
 イヤ、少女漫画の方が正しいか?
 いずれにしても、しんらんなんて俺は知らない。
「あんた、親鸞聖人を知らないの?」
「ゴメン......、知らない」
「まったく、それでもやる気あるわけぇ?」
 やる気?
 この子は何を言っているんだろう。
「あんた、仏教に興味があるんでしょ?」
「え? 仏教? 俺が??」
「そう」
 さて。
 何ていうべきなんだろう。
 正直な話、俺は仏教なんて知らない。
 俺の祖父母の家にはお仏壇があるから、仏教と関連しているのはわかる。
だけど、俺は全く知らない。
そもそも仏教って何だよ?
確か、釈迦だよな?
元祖っていうか、宗祖ってさ。
「なんか勘違いしてるみたいだけど、俺は仏教なんて興味ないよ」
「じゃあ、どうしてあたしのウォークマン聴いたの?」
「そ、それは、その、どんな音楽聴いてるのかな? って思って......。その単純な興味からだよ」
「聴いたくせに」
「え?」
「だから、正信念仏偈(しょうしんねんぶつげ)聴いたじゃん」
 また、わけのわからない単語が出る。
 しょうしんねんぶつげってなんだよ??
「知立さん、何を言っているのかわからないよ」
「とにかく、あんたは正信念仏偈を聞いたんだから、仏教に興味があるのよね」
 何か強引だ。
 いつの間にか宗教の勧誘を受けている。
 一体、何が起きているのだろうか?
「だから、俺仏教に興味はないよ」
「今さらそんなこと言ってもダメよ。あんたはあたしの秘密を知ったんだから」
「秘密? 何それ?」
「だ、か、ら、あたしがお坊さんを目指してること」
「え? そうなの!?」
 俺、驚く!
 このギャルっぽい少女はお坊さんを目指しているらしい。
 でも、お坊さんって坊主じゃないのか?
 それに女の人もなれるのかな。

「きみょうむりょうじゅーにょーらいー