「ただの友達に、お経なんて勧めないわよ。悠真はどう思ってるの? その人のこと?」
「美沙のことを......、どうって、ホントただの友達だよ」
「ホントにそれだけ?」
「うん、まぁ一緒にいて楽しいっていうか、協力したいって気持ちはあるけどさ。そんなもんだよ」
「バカ!」
 と、途端陽菜が吼えた。
 そして、持っていたマンガ本を俺に投げつける。
「な、何で怒るんだよ」
「それって好きってことじゃん! 悠真のバカ! フラれて死ねぇ!!!」
 と、言い残し、陽菜は消えていった。
 あいつ、何キレてんだ。
 ホント、思春期の女子の考えることはわからん。
 だけど......。
 俺が、美沙を好き?
 そんなバカな話があるか。
 だって、俺はあいつの友達で、ただ仏教を広めるための協力をしているだけで。
 その日から、俺は悶々とした気持ちのまま、美沙に接するようになった。

 月曜日――。
 俺と美沙は、新聞部の部長、鈴奈さんに呼ばれ、新聞部の部室にいた。
「人生相談。よかったよ。相談者に回答を送ったら、喜ばれたよ。ホント、君たちはスゴイ」
 どうやら、あの質問を送った相談者は、回答に満足してくれたらしい。
 これはまぁよかったんだけど。
「今週の親鸞聖人の言葉も準備してあるのかな?」
 すると、美沙が答える。
「今日中に、悠真君に送ってもらいます。だから心配しないでください」
「うん、待ってるよ。先生たちの間でも、親鸞さんの言葉のコーナーは人気なんだ。この調子で頑張ってよ」
「はい!」
 美沙はやる気に満ちている。 
 いい傾向なんだろう。
 この子は俺がお見舞いに行ってから、何だか元気になったような気がするよ。
 俺たちは部室を出て、屋上に向かった。
 そこで、いつのとおり話をする。
「んで、今週はどんな言葉を載せるんだ?」
 と、俺は軽くジャブをかます。
 すると美沙は、意気揚々と答える。

『悪性さらにやめがたし  
こころは蛇蝎のごとくなり  
修善も雑毒なるゆゑに  
虚仮の行とぞなづけたる』

いつのとおり、俺にはわけがわからない。
すると美沙が現代語訳を告げる。
「これはね、悪い本性はなかなか変わらないって言ってる言葉ね」
「悪い本性か......。まぁ、そうかもね」