現れた美沙は何だか不満そうだった。
「ウォークマン持ってきたんだ。これがないと、お経の練習に困ると思って」
「あ、ありがと」
 今日は金曜日。
 つまり明日から連休だ。
「月曜日は学校来るよな?」
「うん」
「どうして、休んでたんだ?」
「あ、あんたには関係ないでしょ。あたしだって調子が悪くなることくらいあるのよ」
「そっか、少し心配で」
「え? し、心配してくれたの??」
「あぁ、だって俺、美沙の助手だしさ。それにさ、月曜日が親鸞聖人の言葉の締め切りだぜ。まだ全然してないのに、これで休載したら、よくないよ」
「わかってるわ。ちゃんと、ありがたい言葉を聞かせてあげるから」
「うん。やっぱり、美沙は元気な方がいいよ。じゃあ、月曜日待ってるから」
「そ、そう。ねぇ、パパと何か話したの?」
「えっと、大した話はしてないよ。ただ、僧侶になるの、認めてもらえるといいな」
「そんなの当たり前でしょ。あたしは僧侶になる。それは決まってるんだから」
「そか、まぁ月曜日待ってる。ウォークマンにもお経入れておいたから。まぁ、何かあれば言ってくれ。それじゃ」
 俺はこうして、美沙と別れた。
 最後、美沙は笑顔になったんだ。
 その笑顔を見ると、俺はどこかほっこりするんだよね。
 美沙の笑顔......。
 なんかいいな。
 この時、一緒にいられていいなって思い始めたんだよね。

 自宅――。
 自室で俺は、パソコンを立ち上げる。
 このパソコンの中には、お経が入っている。
 どういうわけか、俺はそのお経が聞きなくなった。
 そして、お経を垂れ流しにする。
 すると、部屋のトビラがドンドンと荒くノックされた。
「はい、開いてるよ」
「悠真! あんた何聞いてんの??」
 その声は陽菜だった。
 こんな時にキンキンとした声を出されて、俺は、うんざりする。
「何って正信念仏偈っていうお経」
「なんでお経なんて聞いてるの、怖いじゃないの」
「イヤ、知り合いが僧侶目指しているんだよ。それで俺も聞いてみただけ。大した意味はない」
「知り合いって誰?」
「知り合いは知り合いだよ」
「まさかだと思うけど、この間一緒にいた女の人なんじゃ」
 陽菜は時折鋭い勘を見せる。
 女の勘とはすさまじい。
「だったらどうなんだ?」
「やっぱり。か、彼女なわけ?」
「違うよ、ただの友達だよ」