だけど、俺はもったいないから弁当を作ってもらって、それを食べている。
 今のところ、一緒に食べる友達はいない。
 だけど、今日は違うんだよね。
 俺の目的は、朝にぶつかった女の子。
 その子は、知立美沙さん。
 知立さんは一番後ろの席に座っていた。
 どうやら一人のようである。
 これはチャンス。
 俺は近づいたよ。
「ねぇ知立さん、隣いい?」
 俺は勇気をもって、声をかけた。
 すると、知立さんは訝しそうに、
「あんたは?」
「俺? 俺は。榊原悠真。あのさ、コレ、今朝落としたでしょ?」
 と、俺はウォークマンを取り出す。
 すると、知立さんはバッとそれをかっさらった。
「え?」
 俺、驚く。
 ふと、知立さんを見る。
 彼女はどういうわけかわなわな震えている。
「どうしたの?」
「聴いた?」
「何が?」
「だから、このウォークマン聴いた?」
 さて......。
 どういうべきなんだろうか?
 確かに俺は聴いたけど、そのくらい問題ないよね。スカートの中をのぞいたわけじゃないんだから。
「うん、聴いた」
 途端、知立さんの顔が真っ赤になった。
「バカバカー」
 というと、知立さんは俺の前から消えていった。
 俺はバカ扱いをされる。
 まぁ、バカなんだけどね。
 一体、何なんだろう? あの子は??
 とにかく、俺は嫌われてしまったのかもしれない。
 何というか前途多難だな。
 全く嫌になるよ。

 放課後――。
 意外なことが起きた。
 帰り支度を始めている俺のもとに、知立さんがやって来たのである。
 俺は、部活に入っていない。
 俺の高校は、部活動は強制ではない。
 だから、入らなくても全く問題ではないのだ。
 スポーツとか苦手だしね。
「えっと、榊原。ちょっと来て」
「え? 何?」
「いいからついて来て」
 と、言うと知立さんは歩き出す。
 廊下を渡り、階段まで行くと、のぼっていくではないか?
 俺の高校は四階建て。
 一年生は四階だから、この上は屋上しかない。
「屋上に行くの?」
 と、俺は知立さんの背中に声をかける。
 膝よりも少し短いスカートが、ヒラヒラと揺れている。
「......」
 無視。
 なぜ??
 とにかく今は付いていくしかなさそうだ。
 屋上のトビラを開ける。
 屋上で活動する部活動はないから、まったく人はいなかった。
「榊原!」