「でしょ、でも、そんな時自分の殻に閉じこもっていたら、前に進めない。たとえ失敗したとしても、阿弥陀如来の大悲があるのだから、不安になる必要はない。だからね、思い切って思いを伝えましょうってことを伝えたいの」
 俺はそれを聞いて納得した。
 意外とまとまっている。
 仏教の教えを説きながら、さらに恋する女の子の背中をそっと押している。
 粗削りだけど、この回答はきっと受け入れられるように思えた。
「どう思う?」
 そう言う美沙は少し不安そうだった。
「いいと思う。あくまでも俺の感想だけど」
「ホント? なら、これをデータにして、新聞部に送ってほしいの」
「わかった。やっておくよ」
「あ、後これ」
「え? 何?」
「うんと、正信念仏偈と和讃のCD。これもウォークマンに入れてほしいの」
「あぁそうだったな。それもやっておくよ」
 と、俺は言い、CDを受け取る。
 お経のCDらしく、曼陀羅のようなものがジャケットの写真になっている。
 とりあえず、やることは多い。
 まぁ、一つずつ片づけていくか。

 放課後――。
 今日も学校は終わりだ。
 チラと、美沙の方を見る。
 すると、彼女と視線が交錯する。
 ただ、美沙はすぐにプイと横を向き、カバンに荷物を詰め始めた。
 今日も放課後は屋上かな?
 そんな風に俺が考えていると、美沙がやって来て、
「悠真、放課後暇でしょ?」
「うん、また屋上か?」
「ううん。今日は違うの。ねぇ、一緒に帰らない?」
 これは意外な提案だ。
 俺たちは、屋上で仏教について話している間柄だ。
 とはいっても、美沙が一方的にまくしたてるだけで、俺は常に聞き役に回る。
 だけど、それでも十分楽しめた。
 美沙が語る仏教の話を聞いていると、何というかためになるというか、勉強になるのだ。
 そう。
 自分の悩みが、ホントにちっぽけなものにな感じるんだよね。
 俺たちのような年齢の人間は、悩みが多い。
 もちろん、どんな人間にだって悩みがあるだろう。
 だけど、親鸞聖人は、どんな人間でも救いがあると言っているらしい。
 そして、仏教こそ救いの教えなのだ。
 そんな風にして、俺たちは仏教を話す。
 だけど、それは屋上だけの話で、話が終わったら、後は別々に帰るのだ。
 だから、俺は美沙がどこに住んでいるのか知らない。
 確かお寺らしいけど。