「そう。お経てさ、練習しようって思うと、あんまり上手くできないの。だからね、視点を変えて、お経を勉強するんじゃなくて、聞き流すようにしたの。ほら、流行の音楽とか、よく流れているでしょ。あれを聞くといつしか口ずさんで歌えるようになるじゃん。あれと一緒。つまり、お経を流し続けて、カラダに覚え込ませるのよ」
 どこまでも美沙は勉強熱心だ。
 俺とは全然違うよね。
 だけど、このカセットテープがきっかけで、俺は苦労することになる。

 翌日――。
 朝学校へ向かうと、既に美沙はやってきていた。
 しかし、何やら様子がおかしい。
 がちゃがちゃとウォークマンを弄っているのだ。
「おはよう。美沙、今日もお経?」
 と、俺が言うと、美沙は食い気味に、
「ねぇ、悠真、あんた機械に強い?」
「え? 機械に? まぁ普通だと思うけど」
「ねぇ、あたしのウォークマン、調子が悪いみたいんなんだけど、見てくれない」
「うん、いいけど、俺もそんなに詳しいわけじゃ」
「とにかく見てよ」
 俺はウォークマンを受け取る。
 試しにスイッチを押してみるが、全く反応がない。
「電池が切れたんじゃない?」
「昨日充電したわ」
「多分だけど、寿命だと思う」
「えぇぇぇぇええ。そんな、困るよ、あたし、それがないと。あんた、助手でしょ、何とかしてよ」
「そんなこと言っても、押しても何の反応もないっていうのは、バッテリーがおかしいか、後は内部が弱っているかだよ」
「修理に出せばいいのかな?」
「俺もあんまり詳しくないけど、これ大分古いウォークマンだから、修理とやってないかもよ。仮に受け付けてもらえても、かなり費用がかかると思った方がいいよ。提案なんだけど、新しいの買ったら。今は一万円以下でも普通に買えるから」
「でも、よくわかんなしい、新しいのってパソコン使うんでしょ?」
「正信念仏偈だっけ? それを入れるだけなら、俺がやってもいいけど」
「ホント? ちゃんと聞けるようになるのよね」
「それはもちろん」
「じゃあ、新しいの買うわ」
「そうした方がいいよ。デジタルの方が使いやすいと思うし」
「......、てきてよ」
「え?」
「だから、新しいの買うのついてきてよ。元々はあんたのせいなのよ」
「はぁ、どうして俺のせいなんだよ?」