「ふん! せっかくだから教えてあげる。親鸞聖人の悪人を救うっていうのはね、『悪人正機』っていう浄土真宗の教義の中でも、重要な意味を持つ思想の一つなの。でもね、そのままの意味を受けとると痛い目を見るわ。いい? 私たちは、煩悩を抱えた悪人と定義することができる。だけどね、自分は悪人だって自覚したものこそ、阿弥陀如来の救いがあると親鸞聖人は告げているの。つまりね、罪を犯したのなら、その罪を受け入れ、悪人だと自覚する必要がある。ええと、だから、悪人であると気づかないとならないの。ここが注意すべき点ね。これを勘違いしている人が結構いて、そういう人はろくな生き方ができないわ」
「すべての人間は悪人なの?」
「そうよ、この世のすべての人間は、生まれながらにして罪を背負っている。そして、末法濁世を生きる煩悩具足の凡夫たる『悪人』と言えるわ」
「まっぽうじょくせ?」
「えっと、時代社会が同時に濁ってしまい、行き先が見えないって意味よ。だから人は煩悩に焼かれ罪を犯すの。そして、その罪を認める必要がある。そういう話」
「そ、そうなんだ。それは知らなかったよ」
「これからあたしがありがたい話をどんどんあんたに教えてあげる。だから、心配しなくていいわよ。でもあたしの言うことを聞くこと、いいわね?」
「わかったよ。協力はするよ。知立さんは、浄土真宗の教えを広めたいわけだよね」
「そうよ」
 意志は固いようである。
 何となくだけど、俺はこの子に興味を持ち始めた。
 なぜ、こんなギャルっぽい女の子が仏教なのか?
 なぜ、浄土真宗の教えに惹かれるのか?
 それが、俺を刺激する。
「じゃあ、明日原稿を持ってくるから、その、データだっけ? それにしてよね」
「わかったよ。じゃあ待ってる」
「うん。じゃあ今日は解散。あたし修行で忙しいから」
 そういうと、知立さんは消えていった。
 俺は一人残されて、そのまま帰宅した――。

 翌日――。
 俺は知立さんから手書き浄土真宗の教えらしきものを受け取り、それをパソコンで打ち始める。
 一応、鈴奈さんに連絡してみたら、新聞部のアドレスを教えてもらい、そこに送信すればいいようになった。
 意外と難解な漢字が多く、打ち込むのに苦労したけれど、打ち込む分量は少ないので、十分ほどで完了する。
 浄土真宗か......。
 俺はしばらく考える。