「お母さんも詳しくないんだけど、確か日本の古い仏教書だったような気がするんだけど。ほらちょっと前に、【歎異抄をひらく】って本が流行ったでしょ?」
「わかんないよ。そうなんだ。歎異抄ね、ありがとう」
 俺はそれだけ言って自室に下がった。
 そして、スマホを片手に歎異抄と調べてみる。
 すると、いくつか説明するサイトが出てきた。
 厳密に言うと、歎異抄の作者はわかっていない。
 それに、親鸞聖人が書いたものではないようだった。
 簡単に説明しておくよ。
 歎異抄とは、鎌倉時代の後期に書かれた、日本の仏教書の一つだ。
 作者は親鸞聖人の弟子である、唯円(ゆいねん)という人らしい。ただ、これも曖昧な部分が多く、謎に包まれているようだった。
 一番有名な文章は――。

『善人なおもって往生をとぐ、いわんや悪人をや』

 であるらしい。
 これは、善人さえ助かるのだから悪人はなおさら助かるという意味になる。
 は?
 なんでだよ??
 普通悪人よりも、善人が助かるのが普通だろ。
 なのに、親鸞聖人は全く別の言葉を言っている。
 ホントに謎が多い人だよ。
 全くね。

 翌日――。
 普通に起きて学校へ向かう。
 正直、足が重いよ。
 何しろ、知立さんに昨日のことを説明しないとならない。
 一応、新聞部に掲載の了承は得ている。
 だから、問題はないんだけど、何というか気が重いんだ。
 学校に着くと、まだ知立さんは登校していなかった。
 俺が、席で座ってぼんやりとしていると、後ろから声が聞こえた。
「榊原! ちょっと」
 その声は知立さんだった。
 朝からキンキンと高い声。
 元気な人だ。
「何?」
「あんた助手でしょ。昨日の話よ」
「あぁ。それなら、大丈夫。ちゃんと新聞部にOKを取ったから、それで、今日の放課後一緒に新聞部に来てほしいんだけど」
「へ? そうなの。なぁんだ、ちゃんとしてくれたんだ。心配して損しちゃったわよ」
「君がやれって言ったんだろ。だからだよ」
「そ。じゃあ、放課後よろしくね」
 そう言うと、知立さんは自分の席に戻り、カセットウォークマンを耳にはめて何やら効き始めた。
 また、お経なのかな?
 まぁどうでもいいんだけど......。

 放課後――。
「榊原、行くわよ」
 と、俺の後ろにやる気満々の知立さんが立っていた。
「あぁ、わかったよ」