お昼になり、瑞希が昼食を摂っていると、そこに瑞希の父親がやって来た。まだ現役で働いているようだったけれど、大分老いている感じがしたよ。大学時代に会った時は、まだもう少し若かったからね。
「健一君、何か話があるみたいだね」
　瑞希の父親は、俺に向かってそう言った。
　とうとうこの時が来た。
　俺は瑞希や、母親がいる前で、結婚宣言をする。
「俺、瑞希さんと結婚したいんです。あ、あの、だから、俺に瑞希さんを下さい！」
　俺は必死に哀願した。
　丁寧に頭を下げ、持てる力をすべて振るったんだ。
　病室内が、一気に静寂に包まれる。
　最初に口を開いたのは、瑞希の父親だった。
「瑞希と……、瑞希はいいのかね？」
　と、瑞希に向かって話を振る。
　彼女はスッと顔を赤くさせると、コクリと頷いた。
「そうか。なら私は反対しないよ。瑞希を幸せにしてあげておくれ、健一君」
「はい、ありがとうございます」
　室内に暖かい雰囲気が流れる。
　これで俺は両親の承諾を得た。自分の両親にはまだ言っていないけれど、後で連絡すればいいだろう。
　俺はこうして瑞希と結婚することになったんだ。人生で一番嬉しいような気がしたよ。だけどね、瑞希は確実に死んでしまう。もう残り時間は少ない。
　週明け、俺は新潟市まで行き、瑞希の代わりに戸籍謄本を取りに行った。これで準備は整った。後は婚姻届けを提出するだけで、俺たちは晴れて夫婦になる。
　その時、残り六日間になっていた。
　あまりにも、残された日々は少ない。これは本当に辛いよね。全く地獄のような苦しみだよ。結婚が決まり、本当なら結婚式とか新居とか、そう言うことを決める必要があるだろう。
　だけどね、俺たちにはそんなことができないんだ。何しろ、瑞希は死ぬと、その存在が消えてしまう。つまり、なかったことになるのだ。
　俺は、それでも忘れたくないよ。何があっても、俺だけは彼女を覚えていたい。愛の力があれば、きっとそれだってできるはずなんだ。
　早く、マリンピア日本海に行きたい。
　そんなことばかり考えていた。
　そのまま月日は流れ、瑞希の退院まで残り一日となった時、俺は病室で瑞希と二人きりになった。もう、瑞希の命は少ない。長くないのだ。マリンピア日本海に行き、帰ることには絶命してしまう。
　それは、どこまでも不幸であった。
「健君、明日だね」