About a girl

「健一君、いつまでこっちにいるの?」
 と、母親が聞いてくる。
「えっと、暫くは」
「そう。それは嬉しいわ。瑞希の退院も決まったから、皆で食事でもしましょう」
「そうですね」
 母親は瑞希の余命を知らない。
 彼女は後九日しか生きられないんだ。
「健君、今日は何してたの?」
 不意に瑞希がそう言ってきた。
 母親の前で婚姻届けを出すのは恥ずかしい。後で二人になった時に出せばいいだろう。
「え、えっと、ちょっとな……」
「怪しいなぁ。まぁいいけど」
 俺たちは暫く三人で話し、有意義な時間を過ごした。昼前になると、母親が家の用事があるからと言って、帰っていった。こうして、俺たちは二人きりになる。
 それを見計らい、俺は大和省庁でもらってきた婚姻届けを出す。
 瑞希は婚姻届けをみて、かなり驚いているようだった。
「ホントにもらってきたんだ」
「うん。俺は本気だぜ」
「でも、そんなに簡単に婚姻届けなんて出せるの?」
「ええと、俺は浦佐が本籍地じゃないから、戸籍謄本さえあれば、ここでも受理できるよ。瑞希の本籍地は?」
「新潟市だと思うけど」
「なら瑞希の戸籍謄本も必要だな。俺が代理で取りに行ってもいいよ」
「う~ん」
 瑞希は唸る。
 やはり、結婚に躊躇しているのだろうか? それはそうだろう。突然現れた幼馴染が、結婚してくれと言っているのである。余命など関係なく動揺するだろう。
「瑞希、考えてくれないか?」
「わかった。じゃあさ、いつでも婚姻届けを出せるように、一応準備しておこうか。それぞれの戸籍謄本を取りに行こう」
 俺の場合、一旦東京に戻る必要がある。今川崎市の溝の口に住んでいるから、高津区役所にいって、戸籍謄本を申請する必要があるのだ。
 また、瑞希は今入院しているから、役所に行けない。その場合は代理で申請ができるみたいだよ。そして、申請は本人の本籍地がある役所の窓口で行うんだ。
 瑞希の本籍地は新潟市中央区。
 つまり、新潟市中央区の役所に行けば、代理でも申請できるわけだ。忙しくなりそうだった。
 俺はその日の新幹線に乗り、一旦溝の口迄戻り、高津区役所に向かう。印鑑がなかったから、100円ショップで認印を購入し、後は本人確認の免許書があればオーケーだ。