About a girl

 それこそ、俺たちは二人で色んな所へ行ったよ。高校時代、大学時代、それぞれの時代で、二人で色々回ったんだ。その懐かしい光景が、脳裏に過る。
「ヒントは?」
「うーん、高校時代、いきなり行った場所」
 その言葉を聞き、俺はピンときた。
 それは、
「マリンピア日本海か」
「そう。よくわかったね。マリンピアに行きたいの」
「そんなところでいいのか? もっと別の場所でも」
「ううん。あの場所は、私にとって思い出の場所だから」
「思い出?」
「そう。あの日、私は能力を得たの」
「上条さんに会ったのか?」
「うん。私の前に、突如現れた悪魔。それがあの人。でも、上条さんって言うんだね。それは知らなかったよ」
「俺の会社の上司なんだ。一応ね。だけど、悪魔だったなんて……」
「きっと、何れあの人も消えるよ。そうすれば、健君の会社からもいなくなると思う。多分ね、存在そのものが消えるの。私と同じように」
「何度も言わせるな。俺は絶対に忘れない」
「無理だよ。それが超能力の掟だから」
「何があっても忘れない。絶対に……」
 この時の俺には、どういうわけか妙な自信があったんだ。例え、世界中の誰もが、瑞希のことを忘れてしまったとしても、俺だけは覚えている。
 瑞希の両親が忘れてしまっても、俺は覚えている。そんな気がしたんだよ。
「じゃあ、マリンピアに行こう。そう決めたら早い方がいい。今日にでも行きたいけど」
「私ね、暫くはこの病院から出られないの」
「そんなの無視しろ」
 すると瑞希は驚いた顔を向ける。
 そして、クスッと笑った。
「そうだね。だって死ぬんだもんね」
「抜け出そう。そうするしかないよ」
「わかった。健君に従うよ。そして、私をマリンピア日本海に連れていって」
「もちろんだ。絶対に連れていく」
「ありがとう。健君……」
 とりあえず、病院を抜け出すのは明日ということになった。
 今の時刻は午後五時。
 つまり、どう足掻いても、今からマリンピア日本海には行けないのだ。本当にもどかしいよ。こうしている間にも、瑞希の寿命は迫っている。
 俺は、浦佐駅の前のビジネスホテルを取り、そこで休むことにした。本当は瑞希と一緒に居たかったのだが、それができなかったのである。なら、仕方ない。明日になれば、一緒に居られる。それを信じて、俺は待つしかないんだ。
 愛って何なんだろう?