About a girl

「わかった。消えるとしよう。しかしその前に、最後に一つ言わせてくれ」
「一つ?」
「そう。私はね、君たちの愛の力を確かに感じ取った。だからこそ、君にはその愛を貫いてもらいたい。本来ね、能力を得た人間が、命を吸い取られると、その存在はなかったことになる。つまり、君たちの記憶から、瑞希さんの存在は消えるんだ。だがね、愛の力があれば、きっと君は忘れないだろう。君の中で、永遠に瑞希さんは生き続けるよ」
 瑞希の存在が消える。
 これは大きな恐怖だった。
 今までのたくさんの思い出が消えてしまう。瑞希と一緒に居た、かけがえのない記憶だ。それが奪われるのは絶対に嫌だ。俺は何があっても忘れないぞ。絶対に……。
「君たちの愛の力が最後に奇跡を生むだろう、私はそれを信じている。桐生君、すまなかったね。そして、瑞希さんを頼むよ」
 それだけを言い残すと、彼は再び消えていった。文字通り、その場から完全に消えた。姿かたちは残らない。圧倒的な無となってしまった。虚無だよね。悪魔の癖に……。
 上条さんが消え、俺はガックリと項垂れた。涙が出そうだったよ。だけどさ、ここで泣いてはいられないんだ。瑞希は俺以上に切ない。何しろ、命があと十日しかないんだから。
 俺は、再び瑞希の病室に戻った。すると、瑞希が窓辺を眺めぼんやりとしていたんだ。
「瑞希……」
 俺がそう言うと、瑞希がクルっと振り返る。
「健君」
「あの人はホントに悪魔みたいだな。信じられないけれど、俺の前で消えたよ。あれはトリックじゃないみたいだ」
「うん、正真正銘悪魔だからね」
「瑞希、何がしたい?」
「え?」
「残された時間、俺はずっとお前のそばに居る。否、いさせてくれ」
「だけど、健君。私なんか忘れた方がいいよ。どうせ私はあと十日しか生きられない。それに聞いた? 私が死ぬと、皆の記憶から消えるんだって。それが超能力を使ったものの宿命。誰からも意識されず、ただひっそりと消えるんだよ。凄く寂しいよね」
「そんな風にさせない。絶対に俺は忘れないからな」
 瑞希を忘れるなんて、絶対にありえない。
 それだけはしたくなかった。
 でも、不安はあるよね……。
 上条さんは悪魔であり、瑞希の命を奪う。それはもう、間違いのない事実なんだろう。不幸にも瑞希の死は避けられない。何て因果なんだろう。
 どこまでも切ないよ。
 本当にね……。