About a girl

「そう。私は悪魔だよ。君が信じられないと思うのは当然だ。だがね、信じて欲しい。そして、瑞希さんの命を奪うのは私なんだ」
「俺にすまないと思うのなら、瑞希を救ってください」
「それはできない。そういう契約だからね。彼女の命は、後十日で尽きる。だから、君には最後、彼女のそばに居てもらいたい。私はね、そう思ったからこそ、君をここに導いたんだ」
「ずっと俺のことを知っていたんですか?」
「うむ。知っていたよ。高校生の時からね。その時から、君には興味があった。瑞希さんと一緒になった男性だからね」
「瑞希が死んだら、俺はもう……」
「君は生きるんだ。彼女の分も」
 それは悪魔の言うセリフではないように思えたよ。一体、この人は何なんだろう? 本当に頭がおかしくなる。
 瑞希が死ぬ。
 それも、後十日しか生きられない。
 嘘だろ……。折角再会できたのに、こんなのってないよ。ありえない。俺は、瑞希と会って、結婚するつもりだったんだ。だからこそ、彼女を探した。必死になってね。
 そもそも、俺は過去の自分を呪ったよ。
 瑞希を探すのは、それこそその気になれば可能だっただろう。わざわざ探偵になる必要はない。恐らく、大学生の段階でも、彼女を探すのは、きっとできたはずなんだ。
 なのに……。
 それなのに、俺はその選択をしなかった。
 それは何故か??
 正直、怖かったんだ。彼女に拒絶され、俺は本当に死んだようになっていたよ。だからね、彼女に会うのが怖かったんだ。もう、どんな顔をして会えばいいのかわからなかった。それ故に、俺は瑞希から足が遠のいた。
 本当は、物凄く会いたかったのに。瑞希に拒絶されるのが嫌で、これ以上に拒絶されるのが嫌で……。身体が動かなかったんだ。
 でもさ、それが痛烈な悪手になってしまった。俺があの時、瑞希を追っていれば、少なくとも俺たちの空白の七年間は埋められたはずなんだ。きっと、結婚だってできたかもしれない。
 余命は僅かかもしれないけれど、それでも、瑞希と一緒に居られたんだ。
 でもさ、今はあまりに条件が酷すぎる。
 ようやく心のつかえが取れて、彼女に会う気持ちになったのに、それがもう遅すぎて、彼女に残された命のともし火は、僅か十日しかないのだ。