About a girl

「上条さん……、え? どうしてここに……、っていうか、どうやって……」
「驚くだろうね? 私はね、瑞希さんと契約を結んだ悪魔なんだよ」
「上条さんが悪魔? 何言ってるんですか? そんなバカな話が」
 俺が慌てふためいていると、瑞希が眉間にしわを寄せて告げた。
「どういうこと? 健君、悪魔を知ってるの?」
 その問いに、俺は答える。
「知ってるも何も、俺の会社の上司だよ。上条って言うんだ」
「上条?」
「あぁ」
 俺たちのやり取りを見ていた上条さんは、静かに口を開く。
「瑞希さん。私はね、秘密裏に健一君に会っていたのだよ。君が愛した男が、どんな人間なのか、この目で見ておきたかったんだ。それでね、彼はもう一度君に会うべき人間だと察した。だから、ここまで導いたんだ」
「悪魔、あなた上条っていうの?」
「人間界の仮の名前です。まぁ好きなように呼んでください」
「あなたが、健君をここに呼んだの?」
「そうです。そうしなければ、彼は一生後悔するでしょう。何しろ、愛しの存在であるあなたを永遠に失うのですから」
 全く混乱の極みだよ。
 上条さんが悪魔で、瑞希に力を与えていた。
 だから彼は、俺に超能力の話をしたんだ。俺が本当に瑞希を信じているのか確かめるために。俺は、その話にうまくはめ込まれた。だけどね、そのおかげで、俺はもう一度瑞希に会えたんだ。それだけは感謝しないとならないかもね。
 否、感謝だと?
 そんなことできるか!
 何しろ、瑞希はもうすぐ死ぬかもしれないんだ。もしも、この上条という悪魔が、瑞希に変な力を与えなければ、俺たちは今頃結婚していたかもしれない。
 子供に恵まれて、平和な生活を送っていたかもしれないんだ。
 それを……。
 それを、この人は奪ったんだ。
 感謝なんてできるわけない。
 俺は燃える瞳で上条さんを見つめる。もちろん、その激情の眼に上条さんも気づいている。彼は俺の前にやって来ると、一言告げる。
「健一君、少し二人で話をしようか? 瑞希さん少し彼を借りますよ」
 そう言うと、上条さんはやや強引に俺を引き連れて病室を出た。そして、ロビーの方へ向かって行く。
 病院のロビーは、入院患者とその面会者でいっぱいになっていた。上条さんは、テーブル席に座らず、窓辺に行くと、俺にも来るように指示を出した。
 俺たちは病棟のロビーで向かいあう。