About a girl

「確かにあったよ。俺は安全運転だから、事故なんて起こすとは思わなかった。だけど、あの女の子を轢いた日、俺は確かに、誰かに操られたんだ。もちろん、誰も信じないよ。俺は、その結果、精神崩壊し、今ようやくこうして、外に出られるようになったんだ」
「あの、例えば声が聞こえなかったですか?」
「声?」
「そう。事故を起こした時、あなたは誰かに操作された。同時に、その時に声が聞こえなかったと聞いているんです」
「声か……、聞いたよ、確かにね」
「それは女の子の声ですか?」
 再び、榊原が驚いた瞳を向ける。
 なんでそんなことまで知っているんだという顔をしているのだ。
「そうだよ。女の子の声だった。凄く悲しい声だったよ。ごめんなさいって言われたんだ」
「その声、覚えていますか?」
「どうだろう? 大分薬を投与されて記憶が曖昧なんだ。だから、覚えているかどうか」
 それはそこで、瑞希の声を、榊原に聞かせてみようと考えた。過去、瑞希の留守電が俺の携帯電話の中に入ったままなのだ。
「あの、その声を聞けばわかりますかね?」
「なんでそんなこと聞くんだ」
「いいから教えてください」
「わからないよ。聞かないことには」
「この声じゃなかったですか?」
 俺は携帯電話を取り出して、瑞希の声を聞かせた。
 榊原は、薬の影響なのか、青白い顔をしていたが、瑞希の声を聴いて、ハッとした顔つきになったんだ。これは、何かを知っている。俺は、そんな風に察したよ。
「この声ですか?」
 と、俺はゆっくりと尋ねた。
 暫し、吟味するように声を聞いた榊原は、ガタガタと震えて声を出した。
「……気がする。この声だよ。この声の気がするよ……。でも、どうして? お前は何者なんだ?」
 ここで超能力を説明しても、多分意味はないだろう。
 だけど、少しくらいなら説明してもいいかもしれない。
「あなた轢き殺した佐々岡優奈って女は、俺の彼女をイジメていたんです。それで、俺の彼女は、優奈に恨みを持っていた。つまり、死んで欲しいと願ったんです」
「そんなバカな! ありえないよ。お前の彼女の怨念が、俺に取り憑いたっていうのか?」
「だとしたらどうします?」