About a girl

 そうなると、退院間近である三カ月目に病院に行けば、彼に会えるかもしれない。俺はね、そう察したんだ。
 同時に、その願いは功を奏したよ。
 優奈の事故から三カ月。
 俺は、長谷川病院へ向かった。
 この病院には、大きな中庭があり、ここは入院患者を始め、普通の人間も入れるようになっている。やたらと自販機が多い場所だったけれど、俺はそこで張り込んで榊原を待った。新聞で写真が掲載されたから、顔は覚えている。多分会えば理解できるだろう。
 その日は、冬の風に冷たい日で、中庭にはほとんど人がいなかった。俺がしばらく待っていると、入院病棟の方から、人が何人か出てきた。ここにはタバコを吸えるスペースがあるから、喫煙者が集まってくるようだった。
 そしてね、その中に榊原の姿があったんだ。
 彼は特徴的な鷲鼻をしていた。だからね、すぐにわかったんだよ。
 こうして、チャンスは到来した。
 俺は、榊原に会う条件を満たしたのである。
 俺の目の前に、確かに榊原はいたんだよ。
「榊原さんですか?」
 勇気をもって、俺は彼に話しかけた。
 榊原は唐突に話しかけられて、かなり驚いているようだった。
「えっと、君は誰?」
 情報によると、榊原は三十歳の壮年男性である。ただ、少し若い印象があった。
「佐々岡優奈の知人です」
 佐々岡優奈……。そのフレーズを聞き、榊原は凍り付いた。
「帰ってくれよ」
 その言葉はかなり頑なだったよ。
 だけどね、ここで引き下がれないんだ。俺はね、瑞希の謎を解き明かしたい。本当に彼女が[接続]の力を使って、榊原に取り憑いたのだとしたら、この男は何かを知っているのかもしれないのだ。
「迷惑なのはわかります。ただ、話を聞きたいんです」
 俺は丁寧に頭を下げた。
 恐らく、優奈を轢き殺したため、たくさんの嫌なことにあってきたのだろう。それが罪を犯した者の贖罪でもある。
「話すことなんてないよ」
「あの、事故を起こした時、その、取り憑かれたんじゃないですか?」
「な、何……」
 俺の言葉に、榊原は酷く驚いていた。
 タバコの煙が宙を舞い、生き物のように蠢いていた。
「だから、誰かに操られたとか、そう言う感覚はなかったですか?」
「お前、それを知ってるのか? どこで聞いた?」
「いや、ただ、そんな気がして。だから教えてください。誰かに取り憑かれた感覚があったのか否か」