「え? そ、それはその……、健君はね……、あのね……。もっと、大切な……」
 急に口をもごもごとさせる瑞希。
 こいつはどこかはっきりしないところがある。それに、俺を友達だと勝手に思っているみたいだ。俺は、お前を友達とは思っていないぞ。ただの幼馴染だよ。
「まぁ、イイや。とにかく大学にいって頑張るんだな」
「うん。そうしたい。そうだ、一緒の大学目指す?」
「なんでだよ? 大学って自分が学びたいところに行くべきだろ? 一緒なんて嫌だよ」
「えぇぇぇー。どうしてぇ? 今までずっと一緒だったじゃん」
「今までが奇跡なんだよ。これからは違う」
「そうかもしれないけどぉ、健君は行きたい大学とかないんでしょ。なら一緒の大学目指してもイイじゃん」
「だからさ、俺に付き合うのは止めろよ。さっさと大学に行って友達を作れ」
 俺はそう言い、パンを全部食べた。
 話は終わりだ。だけど、こいつといる時間っていうのは、俺にとってかけがえのないものなんだ。嫌々言っている割に、俺はこの時間を気に入っている。まぁ、口に出しては言わないけれどね。

 翌日――。
 いつも通り学校へ向かう。
 俺は一人で登校したいんだけど、俺の家の前でいつも瑞希が待っている。だから、結局一緒に行く羽目になる。全く、恥ずかしいったらありゃしないよ。
「健君、おはよう」
「んん、おはよ」
「よく眠れた?」
「普通」
「学校行くの面倒だね? 今日は嫌いな体育があるよ」
「そ」
「そ、ってそれだけ? もっと会話しようよ」
「まぁいいけどさ……」
 また、一緒に登校すれば、冷やかされるに決まってる。それが嫌っていうか、俺の気分を鬱屈とさせるんだよね。
 学校に着き、外履きから内履きに履き替える。いつもと同じだ。だけど、瑞希の奴が、いつまで経っても来なかった。どうしたんだろう?
「おい、瑞希、何してんだ? 俺先に行くぞ」
 すると、瑞希は少し慌てながら、
「う、うん、先に行ってて、私は後で行くから……」
 この瑞希の変化の答えは直ぐに判明する。
 俺が教室で一人朝の慌ただしい時間を過ごしていると、そこに送れて瑞希がやって来た。しかし、どういうわけかスリッパを履いている。そして、その姿を見て、笑う女子の姿がチラリ。
(瑞希の奴。なんでスリッパ履いてるんだよ)