About a girl

「そう。交通事故でね。サークル内でも大変だったんだぜ」
 交通事故だって? 嘘だろ??
 俺は開いた口が塞がらなかったよ。ただ、唖然として話を聞いていたんだ。
 サークルの人間の話によれば、優奈は俺たちの仲を滅茶苦茶にして、そのまま帰ったんだけど、その翌日に、横断歩道を渡っていたところを、トラックに撥ねられたらしい。
 これって……。
 俺の中で、過去の記憶が蘇る。
 そう、橘花恵の事件だ。
 彼女も確か、俺と会った後、トラックに轢かれて亡くなったんだ。今回もそれと全く同じだ。俺と会って、その翌日に轢かれた。そして、不幸にも亡くなってしまった。
 これは、偶然なんだろうか? 俺たちの仲を切り裂こうとした人間は、皆同じように死んでいるんだよ。あまりにも、大きな力が働いているような気がしたよ。
 俺には理解できない不穏な力。
 それが、この一件には潜んでいるような気がする。
「おい、聞いてるか? 桐生……」
「え、あぁ、すまん。聞いてるよ。ただ、驚いてしまって」
「そうだよなぁ。何しろサークルのマドンナだったからさ。サークルの連中もみんな悲しんでるんだ。……あのさ、一つ聞いていいか?」
「あぁ、何だ?」
「お前と瑞希がサークル辞めたのって、優奈が関係してるのか?」
 この人間は意外と鋭かった。
 鋭敏な感覚で、俺たちの間に起きたことを、察したようでもあったよ。
 だけどさ、あの一件を他人に話すことはできないよね。言えば嫌な気分になるし、俺は、あの一件はもう忘れたいんだ。それにさ、俺は瑞希と再び一緒になれた。彼女は俺を信じると言ってくれたんだ。それだけで、いいじゃないか。
 他に何もいらないよ。だからさ、あえてこの場であの一件を言うことはしなかったんだよね。
「優奈は関係ないよ。ただ、サークルの空気に馴染めなくてな。それで辞めるんだ」
「そっか、ならいいけどさ。でもさ、残念だよ。優奈もいなくなって、お前まで消えてしまうとさ」
 それが社交辞令を含めたお世辞であることは、俺にも理解できた。この人間は、本当にそんな風には思っていない。何しろ、俺はサークル内で大きな存在ではなかったから。
 だからね、あのサークルには、例え俺がいなくても、全く問題ないんだよね。俺がいてもいなくても、サークルの存続には影響しない。それだけ、拙い存在だったんだ。