俺はわかっている。俺は人付き合いが苦手だ。それに、率先して友達を作ろうしなかった。だから当然だけど友達がいないんだよね。じゃあ、瑞希はどうなんだろう? 彼女は少し変わっている。だから周りから少し浮いていて、友達ができないのかもしれない。
「たぶん、それだよ」
 俺は瑞希の手元を指さした。
 瑞希はクリームパンを紅茶にどっぷりと付けて食べている。こんな食べ方をする人間はあまりいないよね。多分瑞希くらいだ。
「お前さ、何でパンを紅茶に付けてるの?」
「パンってパサパサでしょ? 水分を含んだ方が食べやすくて」
「そういう変わったところが、友達がいない理由かもしれないぞ」
「そうかな?」
「多分。あまりに人と違っていると、付き合いにくいと思うし」
「う~ん、難しいね。でも大学に行ったら友達作るよ……。大学デビューっていうのかな? エヘヘ」
「大学デビューは、いい意味の言葉じゃないぞ。まぁ頑張れよ」
「健君も友達作りなよ」
「俺か? 俺はどうだろう? わかんないや」
「長い人生なんだから、友達がいた方がイイよ」
「考えとくよ……」
 友達か。難しい問題だ。でもさ、学生時代の友達が、そのまま社会人になっても友達とは限らない。働くようになったら、きっと遊んではいられないだろうし。
 俺の両親は、未だに現役で働いているけれど、休みの日に友達とどこかに行くってことはない。夫婦で出かけることはあるみたいだけど、昔の友達とは全く会わないのだ。つまり、友達とは、ずっと友達ではいられないってこと。まぁ、勝手な俺の考えだけどね。
 仕事が忙しくなれば友人関係は希薄になる。どんどん薄まっていって、関係性は拙くなってしまう。俺はそんな風に思ってる。そして、そんな関係性ならば、あえて作る必要はないだろう。
 そもそも、俺は友達がいなくて、困ったっていう経験はあまりない。強いて言えば、中学時代の修学旅行で、自由時間に一緒に居る人間がいなくて、寂しい思いをしたくらいだ。だけど、それさえもどうでもいい。友達なんていらないだろ? 全く……。
「なぁ、瑞希は友達が欲しいのか?」
 と、俺は尋ねる。
 すると、瑞希は目を大きく見開いて、その質問に答えた。
「うん。欲しい……かな。私、ずっと一人だし。ううん、でも健君がいるから、一人じゃないかな」
「俺は友達なのか?」