「お、お前、何を言ってる。止めろよ」
「あんたら、ウザいんだよ。カップルでサークル入ってキモいったらありゃしないよ。あんたらみたいなカップルは、滅べばいい。死んじゃえばいいんだ」
 こいつは狂っている。
 最初から少し歪んでいると思っていたけれど、レベルが違う。早い話、こいつは人の幸せが憎いんだ。多分、俺たちが付き合っていて、それでサークルに入ってさらに友達を作ろうとしたのが許せないんだろう。 
 つまり、自分が中心で世界が回ると思っている。少し可愛いから、周りの男たちにちやほやされて調子に乗っているんだ。それで、俺を篭絡しようとしたんだ。だけど、俺がそれを拒絶した。だからこそ、その腹いせに瑞希の前でイチャイチャしている所を見せつけた。
 全く、何て野郎だ。許せないよね?
「もう、顔見せんな」
「はぁ? あんた誰にモノ言ってんの?」
「今、立ち去れば、俺はお前に何もしない。これ以上、俺たちの仲を掻き乱すな。俺はただ、穏便に過ごしたいだけなんだよ」
「あんたらみたいな幸せそうなカップル見てると、腹が立つわ。友達とかいない癖にさ、背伸びしてサークルなんて入って、痛いったらありゃしないよ」
「お前に関係ない。俺たちは、普通に付き合って、普通に友達を作って、普通に大学生活を送りたいだけなんだ。なのに、どうしてお前はそれを邪魔する。おかしいだろ? 絶対変だ。お前は歪んでる」
「好きなように言えば。もう目的は果たしたし」
「いいからもう消えろ。じゃないと、俺は自分を抑えきれない」
「何? 私に襲い掛かるつもり? ウケるんですけど。そんなことしたら、後で絶対後悔するから止めときな。でも、帰れって言うのなら帰るよ。もういいもん。あんたたちの仲は滅茶苦茶にできたし、私もスッキリしたしね。じゃあね、健一」
「俺の前から消えろ。二度と話しかけるな」
「当たり前じゃん。あんたらだって、もうあのサークルに入れないよ。それに大学にだってね」
「サークルは辞める。もう行かないよ。大学は行くけどな。とにかく、もう消えてくれ。頼むから」
 怒りが沸々と湧き上がってくる。
 本当に、目の前にいる悪魔を殺したい。人に対して殺意が出たのは、生まれて初めてだった。どちらかと言うと、俺は穏便な人間だけど、こんな風に瑞希を傷つけられて、黙っていられるわけがない。
 だけど、俺には何もできない。