瑞希は唖然としている。
 それはそうだろう。信じてる相手が、他の女と抱き合っているのだ。それも、その女はタダの女ではない、自分が友達だと思ってる女なんだ。
「瑞希、これは違うんだ」
 俺は必死に弁解しようとする。
 だけど、これがチャンスだと感じた優奈は、最悪の一言を言ったんだよね。
「瑞希、私たち、付き合うことにしたの。健一はもうあんたのこと好きじゃないんだよ。私が好きなの。だから帰って」
「お、お前何を出鱈目言ってるんだ。止めろよ」
 茫然自失と立ち尽くす瑞希はわなわなと震えている。同時に、目にいっぱいの涙を浮かべて、燃えるような瞳で俺を見つめた。
 最高に怒っている。瑞希が怒り狂っている。こんな瑞希を見るのは、初めてかもしれない。
「健君、酷いよ……。こんなのってないよ」
「瑞希違う。こいつは出鱈目言ってる」
「もう、知らない……」
 瑞希は泣きながら、走っていった。
 不味い、追わなくちゃ。
 ここで彼女を追わなかったら、俺はきっと後悔する。
 でもね、優奈がヒシっと俺を抱きしめ、俺を束縛する。こいつ、女の癖にすげぇ力だよ。
「優奈止めろ! 離せ!」
「嫌だよ。離したら健一は瑞希のところに行っちゃうもん」
「当たり前だろ。お前、自分が何してるのかわかってるのか?」
「わかってるよ。だって、それが目的だったんだもん」
 目的?
 不意に、破滅的な空気が迷い込んできた。
 こいつは、何を言っているんだ? 単純に俺のこと好きで、俺を強引に手に入れようとしているのではないのか? そう、橘花恵みのように。
「優奈、お前何言ってんだ」
「これで目的達成かな。あぁ、スッキリした。私に逆らうと、こういう目に遭うんだからね。それをわかっておきなさいよ」
 話が見えない。
 俺は、ガクガクと震えながら、優奈を見つめた。
「目的って何だよ? 何言ってるんだ」
 蠱惑的な瞳を、優奈は俺にぶつけてくる。
「私さぁ、瑞希みたいな、ちょっとトロいタイプ、見ててムカつくんだぁ。それでね、あいつが健一と付き合ってるって聞いて、ちょっとちょっかい出してやろと思って。あんたたちの中を滅茶苦茶にしてやろうと思ったの。最初はあんたをものにして、瑞希に見せつけてやろうと思ったんだけど、あんたが強情だから、こうしてやったの。わかったでしょ。私に逆らうとこうなるのよ」