ピンポーンとインターフォンが鳴る。俺は、てっきり瑞希がやって来たと思い、玄関に向かう。疲労はあったけれど、瑞希と会えばそれも吹き飛ぶだろう。俺は、そんな風に考えていたよ。
「瑞希、早かったな……」
　玄関のトビラを開ける。
　しかし、待っていたのは瑞希ではなかった。
「健一。どうして帰っちゃうの」
　それは、優奈だった。
　彼女は瞳に涙を浮かべて、俺の前に立っている。泣きたいのはこっちだよ。もういい加減にしてくれ。俺たちを放っておいてくれよ。
「帰れ。俺はもう、お前と話したくない」
「どうして？　何が嫌なの？　私だよ。私が誘ってるんだよ」
「止めろよ。俺には瑞希がいる。だからお前とは一緒になれない」
「嫌。嫌ったら嫌。私は健一がいいの」
「無理だよ。諦めてくれ」
「簡単に諦めきれないよ。何が不満なの？　私は瑞希よりも可愛いし、意外と尽くすタイプなんだよ。だからさ、私と一緒にいようよ。そっちの方が楽しいから」
　こいつはかなり強引だ。
　こういうヤツが、将来ストーカーになったりするんだよな。ちょっと可愛いから、男は全て自分のものになると考えてるんだ。でもね、その手には乗らない。俺は絶対にお前に何か靡かないぞ。
「とにかく帰ってくれ。そして、俺にもう話しかけないでくれよ」
「私をフルの？　そしたら私、瑞希と友達になるの止めるよ」
「止めてもいいよ。お前たちの関係は絶対におかしい。友達関係じゃない。そんな関係なら、むしろ終わった方がいい」
「瑞希はそう思うかな？　ファッションやメイクを教えたのは私だよ。私が、あの子をキレイにしたの。それはわかるよね？　健一だって、瑞希がキレイになって嬉しいって思ったでしょ？　それって巡り巡って私のおかげなんだからね。だから、少しくらい私の方を向いてくれてもいいじゃん」
「無理だよ。俺は瑞希を裏切れない」
　そう、俺は絶対に瑞希を裏切れない。
　諄いようだけど、それは事実なんだよね。
　だけど、優奈はそんな風に考えていない。こいつは最終手段に出たんだ。
「好きなの！」
　がばっと、彼女は俺に飛びついてきた。跳ね飛ばさなきゃ。俺は心を鬼にして、あらん限りの力で抵抗しようとした。ただ、タイミングが最悪だった。
　優奈が俺に抱き付いてきたとき、丁度瑞希が俺の前に現れたのだ。
「け、健君……、そ、それに優奈ちゃんも……、ど、どうして」