話すって何を? 一連の出来事を説明するのか? まさか! そんなことはできないよ。この事件は、俺の胸に押しとどめておく。まぁ、今後優奈との関係は考えなければならないだろう。
 だけどさ、瑞希は優奈と離れる必要があると思うんだ。優奈の本性がわかった。あいつは、橘花恵と同じだ。似たような匂いがするよ。その淫らな香りは、俺を悪戯に刺激していく。
 もう、嫌だ。あいつとはきっぱり縁を切ろう。そして、瑞希にもそう言うんだ。それしかないよ
 午後七時。
 俺は自宅に戻ってきた。
 港南台から俺が住む金沢八景は、距離はまずまず近いけれど、電車に乗ると、結構時間を食ってしまう。何しろ、路線が違うのである。だから、俺が帰ってきたときは、既に辺りは暗くなっていたよ。それはまるで、俺の心を反映しているかのように、深い深い闇だった。
 だけどね、事件はこれで終わりにはならなかったんだ。閉幕はまだまだ先になる。
 部屋で一人、俺は今後の優奈との関係を考えていた。優奈はサークルの華だ。女王様でもある。だからあいつは、きっとサークルを辞めないだろう。でもさ、あのサークルにいる限り、俺はあいつに会わないとならない。
 それは、できれば避けない。あんな変な関係になり、俺はもう、彼女とまともに話ができないだろう。とにかく嫌なんだ。俺はただ、平穏無事に暮らしたいだけなんだよね。
 その中に瑞希がいる。瑞希といつまでも、二人で寄り添って生きていきたい。だからね、俺の中で優奈は必要ない。否、いてはいけない存在なんだ。馬が合わないというか、混ぜるな危険の関係だ。
(瑞希にもあいつと別れるように言おう)
 優奈は本性を見せてきた。
 それに、俺が拒絶したから、何かしてくるかもしれない。もしかすると、瑞希に何か被害が出るかもしれない。
 高校時代、俺は橘花に好かれた。でもさ、俺はそれを拒絶したよね。その結果、瑞希や俺はイジメられた。今もまた、あの時の風景が再燃しそうな勢いだよ。
 俺は瑞希に話があると連絡し、これから行ってもいいかと確認を取る。すると、瑞希は俺の家に来たいと言い出した。夜、歩かせるものどうかと思ったが、治安はいいし、問題ないだろう。俺は瑞希を家に呼び、優奈と別れるように説得しようとしたんだ。
 だけどね、再び悪鬼が俺の前に現れる。
 それは、瑞希が来る五分前のことだ。