俺は大学の帰り道、瑞希に向かってそう言った。
 すると、瑞希はかなり意外そうな顔をする。
「サークル辞める? どうして?」
「なんていうのかな、俺たちに合ってないような気がして」
「そんなことないよ。優奈ちゃんだっているし。楽しくないの?」
「あのさ、優奈は瑞希を都合のいい玩具だと思ってるんじゃないか」
 そこまで言うと、瑞希がキッとした視線を向けた。不味い、怒ってる……。
「なんで、健君酷いよ。どうして優奈ちゃんにそんなこと言うの」
「落ち着いて聞いてくれ。だってさ、冷静に考えてくれ。瑞希、あいつの宿題をやってるだろ? それも一つや二つじゃない。ほとんどの科目の宿題をやってる。なのに、あいつは全く何もしていないんだ」
「そうかもしれないけど、優奈ちゃんは忙しいから」
「本当の友達は、宿題をやってあげることじゃない。確かに助け合うのは大切だけど。この友情は一方通行だ。瑞希ばかりが苦労して、優奈は楽してる。多分だけど、あいつは優奈を友達だとは……」
「馬鹿! 健君の馬鹿! 酷いよ優奈ちゃんにそんなこと言って。私を失望させないで」
 優奈は周りが見えていない。
 友達という幻想に縛られて、真実が見えないのだ。全く困ったよ。これじゃ性質の悪い新興宗教と一緒だ。頼む、目を覚ましてくれ瑞希……。

「ねぇ、健一って瑞希と付き合ってるんだよね?」
 ある日、俺が大学の掲示板の前で、優奈と出会った。彼女は一人で入るようで、ニコニコしながら、俺に話しかけてきたんだ。この女、よくわからん。
「そうだけど」
「どうして?」
「どうしてって、それはまぁ、好きだから……」
 自分で瑞希を好きというと、何というか恥ずかしくなってしまう。高校の頃は、よく瑞希に好きって連発していたけれど、最近はあまり言わなくなったよな。
「へぇ、瑞希が好きなんだ。ふ~ん」
「なんだよ、別にいいだろ。佐々岡さんには関係ないよ」
「優奈でいいよ」
「え?」
「だから優奈でいいって。私さ、苗字で呼ばれるのに慣れてないんだ」
「で、でも」
「いいじゃん。同じサークルの友達なんだし」
 友達。
 俺と優奈って友達なのか?
「わかったよ。じゃあ、今度から名前で呼ぶよ」
「今度じゃなくて今呼んで」
「今ぁ……、まぁいいけどさ」
「早く早くぅ」
「ゆ、優奈ちゃん」
「ちゃん付けしなくていいよ」
「ゆ、優奈」