「健君、いらっしゃい」
　俺が瑞希の家に向かうと、玄関で彼女が出迎えてくれた。
「お父さんやお母さんは？」
「うん、今日はいないの」
「え？」
「旅行に行っていないんだよ。だから、今日は健君と二人っきり」
「そうなの？　お菓子買ってきちゃったよ」
「そんな気を使わないでもいいのに……」
「だって俺、付き合ってから挨拶もしていないし」
「お父さんもお母さんも、ちゃんと知ってるよ。今度連れてきなさいって言ってたしね。恵ちゃんが亡くなって、色々ニュースで言われたから、お父さんもお母さんも健君や私を心配してるの……。でもね、大丈夫。二人共私たちの仲を見守ってくれるから」
「それならいいんだけど」
「とにかく入って。今日はね、ご飯作ったの」
「瑞希の手料理か。楽しみだな」
「美味しいかわからないけれど」
　瑞希ははにかみながら俺をリビングに案内してくれた。キッチンからはいい香りがしている。よくさ、ラノベのヒロインになると、とんでもない味の料理を作ることがあるけれど、そんな風にはならないみたいだ。俺はホッと胸を撫で下ろす。
　夕食のメニューは、ご飯に味噌汁、それに卵サラダと肉じゃがだった。なかなか手の込んでいる感じで、とても美味しそうだよ。
「瑞希が作ったの？」
「うん。全部クックパッドの受け売りだけどね」
「それでも凄いよ。感動した」
「ホント？」
「うん」
「なら、ご褒美頂戴」
　瑞希がご褒美を求めている。彼女は目を閉じて、もじもじとし始めた。俺はそれを見て、彼女に近づくと、そっと抱きしめたんだ。そして、そのまま唇を重ねていった。
　プルンとした弾力のある唇の質感が、じんわりと広がっていく。蕩けるようなキスをすると、瑞希はとても喜んだ。花が咲いたような笑顔になり、俺をキュッと抱きしめる。俺たちは暫し抱擁しながら、甘いキスを続けた。
　それが終わると、食事になるんだけど。俺は激しく緊張していんだ。今日は多分、普通にご飯を食べるだけでは終わらない。もっとその先に進んでしまう。なんとなくだけど、そんな気がしたんだよね。
　俺は今日、大人になる。
「健君、どうしたの？」
「否、何でもない……。ご飯食べようか？　冷めないうちに」
「そうだね。座って」
　夕食は、穏やかに終わった。