これにはね、俺も動揺したよ。俺は悪気があって、他の女の子を見たわけじゃない。ただ、ぼんやりとして、見っちゃっただけなんだ。俺も男だから、少し可愛い子がいれば、見てしまうこともあるだろう。それってさ、結構仕方ないというか、勘弁してほしいよね。
「見てないよ。気のせいだよ」
「見てたよ。いやらしい目で、女の子を見てた」
「だから見てないって」
「見てたもん。私のこと嫌いになったの?」
「嫌いになってないよ」
「ホントに?」
「ホントだよ」
「だけど、健君はいつまで経っても、キスしかしてくれないよね」
「キスしか……、まぁ、そうかもしれないけれど、俺は瑞希が好きだよ」
 瑞希は、俺にキス以上の行為を求めている。俺だって子供じゃないから、そのくらいわかる。瑞希とセックスする。その日が近いのかもしれない。というよりも、そうしないと、瑞希は満足しないように感じられたんだ。
「健君、今度の土曜日、家に来ない?」
「土曜日? まぁいいけど。瑞希の家に行くの久しぶりだよな」
「うん。小さい頃は、よく遊びに来ていたのにね。こうして高校に上がってからは、全く来なくなっちゃった」
「まぁ、なんというか恥ずかしいというか」
「大丈夫だよ。とにかく土曜日待ってるから」
「わかったよ。土曜日に行くよ……」 
 俺はこうして瑞希と約束する。
 瑞希の両親に会うのも久しぶりだし、結構いい人たちだから、問題なく話せるだろう。今思えば、彼女と付き合ってから、瑞希の両親には会っていない。でもね、橘花が亡くなって、俺たちの関係がニュースになったから、知っているはずなんだ。となると、やはり挨拶くらいはしておいた方がいい。そんな風に感じたよ。
 土曜日――。
 瑞希に連絡すると、夕方に来て欲しいと言われたから、その指示に従う。
 夕方になって、瑞希の家に向かったってわけ。瑞希の自宅は、新潟駅の万代口から少し歩いたところにあるマンションだ。昔からあるマンションだけど、しっかり管理されているからキレイなのだ。そして、ここに来るのは久しぶりだ。瑞希のお父さんとお母さん、元気かな? 昔は結構可愛がってもらっていたよ。でも、付き合ってからは挨拶もしなかった。もしかすると、不満を持っているかもしれない。
 俺は、駅前のお菓子屋で、菓子折りを一つ買い、それを持参した。だけど、俺の想像とは違った世界が広がっていたんだ。