「ん、どういうことですか?」
「坂本が事故を起こす前に聞いた奇妙な声。その声が、野村瑞希とそっくりらしいんだ。実際、野村さんの声を録音させてもらって、その声を坂本に聞かせたら、顔を青くしていたよ。そして、この声が聞こえたって言ったんだ」
「まさか、それを信じるんですか?」
「まぁ、人の記憶なんてものは曖昧なものだからね。一概に信じられるものではない。だがね、あの時の坂本の表情は本気だったよ」
「何が言いたいんです? もしかして、瑞希が呪い殺したとでも言うんですか?」
「そうだとしたら、とても恐ろしいことだよね。なぁに、到底信じられる話ではない。ゴメンね、変な話をして。今日は来てくれてありがとう。感謝しているよ。野村さんとお幸せにね」
 こうして、俺は警察から解放された。
 何というか、後味の悪い時間だったよ。坂本が聞いた声、それが瑞希そっくりだった。同時に、瑞希が呪い殺したのではないか? そんな風に考える刑事がいる。これは大きな恐怖だよね。全く、この世界はわからないことだらけだよ。本当に嫌になる……。
 嫌になる。それは、まだ他にもあったんだよね。実はね、橘花が亡くなってから、俺たちに対するイジメは、そのまま続いたんだ。元凶がいなくなったというのに、そのままイジメは続いたってわけ。
 その理由は、瑞希が橘花を呪い殺したのでは? という噂が流れたからだ。マスコミの心無い放送で、瑞希と橘花の対立関係が明らかになってしまったんだよ。同時に、俺という男を巡って争ったのではないか? という憶測が流れたんだ。全く、本当に何を考えているんだが。そんな超能力みたいな力があるわけないのにね。
 でも、人は噂が大好きだ。特に人の不幸は蜜の味というではないか。だから、こぞって俺たちの関係を、何というか見世物みたいにしたんだよね。そんな影響があって、瑞希はどんどん淘汰されていった。無視というか、もっと酷くて、恐れられるようになったな。もちろん、そんな存在に話しかける人間はいないよね。
 呪い殺した得体のしれない女の子。近づけば、自分も呪われるかもしれない。だからね、彼女は、恐怖映画の代名詞である『貞子』となったってわけ。貞子は基本的に恐れられる存在だ。恐怖の象徴だよね。瑞希は、ますます孤独になり、俺に依存するようになっていったんだ。