「罪は問われなくなる。精神疾患だからね。まぁ病院行きになるだろうがね」
「そんな。人が一人死んでるのに……」
「そうだ。私はね、彼の言葉を嘘とは思えないんだ」
「信じるんですか? 身体を乗っ取られたって」
「否、幾らなんでも、そんな超能力みたいなことは無理だろう。でも、今日君をここに呼んだのは、ある理由があってからなんだ」
「理由って?」
「橘花恵と最後に話したのは君だ。その時、何を話したんだ」
 さて、どう話すべきなんだろう?
 適当に話を作って誤魔化すこともできる。……否、それは無理か。相手は歴戦の刑事だ。嘘をついたってろくなことにならないだろう。それならば、俺が取る選択肢は一つしかないよね。
 そう、俺は正直に話したんだよ。
「橘花さんに告白されました」
「告白? 好きだと言われたのかい?」
「はい、そうです」
「それで、君はなんて答えた?」
「わかるでしょ。断ったに決まってます。だって、俺には付き合っている子がいますから」
「マスコミが調べ上げた話を同じだな。君はこれを誰かに話したか?」
「いえ、話していません。マスコミの想像力は凄いですよ。脱帽しました」
「うむ。となると、橘花は、君に拒絶されて傷心中だったというわけだな」
「そうです。でも、だからと言って、彼女が自殺するとは思えません」
「どうしてそう思うんだ?」
「実は、俺と付き合ってる女の子は、橘花にイジメられていたんです。人をイジメるような人間が、簡単に死ぬとは思えなくて」
「なるほど……、何となく話が見えてきたよ」
「こんな話で何かわかったんですか?」
「否、こっちの話だ。まぁ君もショックだったろう。何しろ告白を断って、次の瞬間にはその子が事故死してしまったんだから」
「俺の所為? っていいたいんですか?」
「否、違うよ。むしろ逆だ。君は自分を責めちゃダメだ。君が告白を断ったから、彼女が死んだのではないよ」
「それはわかってます」
「ならいいんだ……。ちなみに、橘花がイジメていたという子の名前を教えてもらえるかな?」
「とっくにマスコミにも知られてますから、あなただって知ってるんじゃないですか?」
「君は鋭いね。そう、実は知っている。野村瑞希さんという女の子だろう」
「そうです。でも彼女を問い詰めないでください。弱い奴だから」
「私が、この事件を不可解と考える理由は、まさにここにある」