でもさ、俺は彼女をフッたよね。それは当然だ。何しろ、俺は瑞希と付き合っている。だからさ、橘花とは付き合えない。それにね、仮に俺が瑞希と付き合っていなかったとしても、俺は彼女の想いに応えなかっただろう。
 少なくとも、俺は橘花のような女が苦手だ。どこか高飛車なところがあるしね。それでいて、多分だけど自分を可愛いと思っている。そんな人間の相手をするのは、結構疲れると思うよ。俺はもっと、お淑やかな女の子が好きなんだ。そう。瑞希みたいなね。
 まぁね、マスコミは橘花の想い人である俺に目を付けたってわけ。どこから漏れたのかわからないけれど、彼らは俺が告白されたことを知っていて、それが事故の原因になったのではないかと考えているようだったよ。
 それにね、ここに瑞希も登場するんだ。
 俺と瑞希は付き合っている。これも、外部に漏れてしまったようだ。そしてね、橘花が俺に告白して、それを知った瑞希が怒って、事故を引き起こしたんじゃないかとまで言われるようになったんだ。
 全く、やれやれだよ。本当に想像力が逞しいよね。そんなことあるわけないのにさ。瑞希の想いの力が、橘花を包み込み、事故を引き起こした。そんなありえない妄想が囁かれるようになったんだ。
 また、こんな風に囁かれるようになった原因は他にもあるんだ。
 実はね、警察が秘密裏に瑞希の声を録音して、坂本正和に聞かせたんだ。そうしたら、彼はこの女の声が俺を支配したんだって言い放ったんだよ。
 つまり、坂本が事故を起こした時、どういうわけか、脳内に瑞希の声が聞こえていた。そして、気づいたら身体を乗っ取られて、事故を起こしてしまった。話を要約すると、そんな感じになる。
 とまぁ、こんなに風に噂が噂を呼び、この事件はどんどん大きくなってしまった。そしてね、とうとう警察は、橘花と最後に会ったのが、俺だと導き出したんだよ。
 だからさ、俺は警察に呼ばれて、軽く話をすることになったんだ。もちろん、警察は坂本の言っていることを信じているわけではないだろう。彼は重大な事故を起こした。その言い逃れをしている。そんな風にも考えられるからね。
 とにかく、俺は新潟にある東警察署の取調室に呼ばれ、ある刑事と対面することになったんだ。