「不可思議な事故だった」
「不可思議？」
「トラックに女の子が轢かれたんだよ。事故当時、直ぐに運転手が出てきたよ。青褪めた顔をして、ガクガクと震えていたねぇ。もっとも、女の子はガードレールに突き飛ばされて、全身を強く打ったみたいだったよ」
「お爺さん、見ていたんですか？」
「あぁ、偶然ね。だがね、運転手がおかしなことを言っていたんだよ」
「おかしなこと？」
「そう。誰かに身体を乗っ取られたっていっていたねぇ。それで事故を起こしてしまったようだよ。だけど、不幸な事故だよ。まだ若い女の子が亡くなってしまったんだから」
　身体を乗っ取られる。
　と、運転手は言っていたらしい。俺は、猛烈にこの運転手に会いたくなった。しかし、それは無理だろう。とっくに捕まっているはずだ。何しろ、人が一人死んでいるんだ。普通に事故を起こしたのとはわけが違う。恐らく数十年は娑婆に出て来られないはずだ。
　俺は直感したよ。
　これは普通の死亡事故ではない。
　何か、不穏な力が働いている。何となくだけど、俺はそんな風に感じたんだ。
「少年、君は事故に遭った子と仲が良かったのかね？」
「いえ。そんなことは」
「そうか。だが学友が亡くなるのは辛いだろう。君はその子の分まで生きなければならないよ。それが生きている人間の務めだよ」
「そうですね。わかりました」
　この事故は、結構大きく報道された。全国ニュースにもなったし、新潟のテレビ局はこぞってこの事故を放送したんだ。
　その影響もあって、通夜にはたくさんの報道陣が集まってきた。俺たち生徒たちにも容赦のないインタビューが来て、泣いている人間も多くいたよ。
　それだけじゃない。事故を起こした運転手の言葉が大きく報道され、それがまた問題になったんだ。

『奇妙な女の声が聞こえたと思ったら、次の瞬間、身体を乗っ取られていたんだ』

　橘花を轢き殺したトラック運転手は、坂本正和と言い、事故を起こした瞬間の出来事を、そんな風に呟いたらしい。
　これが、結構なセンセーショナルを呼び起こしたんだ。マスコミが橘花の背景を調べて、それを俺に結び付けたんだよ。どうやらね、橘花は仲のいい友達に、俺のことが好きだって呟いていたらしいんだ。