橘花は本当に勝手だ。きっと自分が世界の中心だと思っているんだろう。ちょっと可愛いから男子にちやほやされる。その勢いで、俺だって手に入れられると持っているんだろうよ。だけど、その手には乗らない。
　確かに橘花は可愛いかもしれないけれど、俺には瑞希がいるんだからね。
　俺は彼女を振り払い、そのまま走る。遠くまで逃げたかった。どうして？　どうして俺なんだ？　俺は瑞希と付き合っている。だからさ、橘花とは絶対に付き合えない。
　それに、彼女のねじ曲がった性格が嫌いなんだよね。いくら俺が好きだとしても、その想いを叶えるために、人を犠牲にする。それって絶対にダメだよね。瑞希を犠牲にして、俺に近づいてきた。そのいやらしい精神が、俺はダメなんだよ。
　俺は橘花を拒絶した。断固として……。
　だが、事態は思わぬ方向に進むことになるんだよね。俺は不可思議な力に包み込まれ、藻掻き続けるんだよ。

　翌日――。
「皆、聞いてくれ。大切な話だ」
　朝のホームルーム。
　担任教師が、神妙な顔をして教室に入ってきた。そして、彼は教卓に着くなり、はぁとため息をつき、話し始めたんだ。
「昨日の夜。橘花恵さんが交通事故に遭った。トラックに轢かれて即死だったそうだ。通夜は明日の晩にある。それで……」
　俺は言葉を失ったよ。
　今、担任は何と言った？　確かに橘花が死んだと告げたのである。昨日まで、彼女は元気だった。俺に告白してきたくらいだ。そんな橘花が、あっさりと死んでしまったんだよ。その事実は、俺を奈落の底に突き落としたんだ。
　休み時間、俺は瑞希と二人で階段の踊り場にいた。人気はあまりなく、ひっそりとしている。
「瑞希、橘花が死んだよ」
　すると、瑞希は意外とあっさりしていた。
「うん。そうみたいだね」
「お前、あっさりとしてるなぁ。まぁ確かにあいつは俺たちをイジメていた張本人だからさ。少し痛い目を見た方がいいと感じるけど、死んだんだぜ。もう二度と、この世界には戻ってこない」
「当然だよ」
「当然って」
「健君を奪おうとしたから罰が当たったんだよ」
　瑞希はそう言うと、俺にキュッと抱き着いてきた。
　ここは学校だ。誰かが見ているかもしれない。俺は、彼女を振り払う。恥ずかしかったんだよね。
　だが、瑞希は不満そうだった。
「どうしたの、健君？」