恐らく、瑞希は俺が何もしてこないから不満なんだろう。そこまで考えると、急に瑞希が愛おしくなる。幸い、ペンギン海岸には誰もいない。もう少しで閉館時間なのだ。こんな時間にペンギン海岸に来るもの好きはいない。つまり、ここにはペンギンと俺たちしかないのだ。俺たち二人だけの世界が広がっているとも言えるよね。
 俺は、一歩前に進み、瑞希に近づいた。すると、瑞希はビクッと背筋を震わせる。
「瑞希、好きだよ……」
 そう言い、俺は、そっと瑞希を抱きしめる。女の子を抱きしめるのは、これが初めてだ。初めて抱いた女の子の感触は、かなり柔らかく、人の温もりを感じた。同時に、ふんわりといい香りが漂ってくる。この匂いが、俺をますます興奮させるし、ヒートアップさせる。
「健君、私も好き」
 俺は瑞希の肩を抱き、彼女の顔を見つめた。瑞希も何をするのか察したのか、不意に目を閉じた。俺は、それを合図に、自分の唇を彼女の唇に近づける。
「ぷちゅ……」
 触れるだけの些細なキス。
 プニプニとした唇の感触が、いつまでも残る。初めてのキスを終えると、俺は途端に恥ずかしくなった。ペンギンだけが、不思議そうに俺たちを見ている。ここに俺たち以外の人間はいない。そして、俺は初めてキスをする。それは、身も心も痺れるような圧倒的な感覚だったよ。
「よかったぁ。健君、ホントに私が好きなんだね。好きじゃなかったら、キスしたり、抱きしめたりしないもんね」
「そうだよ。これでわかったろ」
「何となく不安だったの。だって、健君付き合ったのに、何もしてこないから」
「俺は紳士なんだよ。それに瑞希を傷つけなくなくて」
「傷つかないよ。ねぇ、放課後毎回キスしてくれる?」
 瑞希は顔を真っ赤にさせてそう言った。
 俺も、多分真っ赤だったと思うよ。
「いいよ」
「えっと、抱きしめてくれる?」
「うん。抱きしめる」
「そしたら、私学校でもやっていけるよ。どんなに辛くても大丈夫。だから安心して……。あ、でも、今は健君もイジメられてるのか。困ったねぇ」
「俺も大丈夫だよ。さっきも言ったろ。お前がいれば俺は強くなれる。だから心配すんな。二人で寄り添っていけばいい。どんなに辛くても、二人一緒なら大丈夫だよ」
「そうだね。うん、ありがとう、健君」
「そろそろ帰るか? もう閉館時間だ」
「そうだね。でも、また来ようね。絶対だよ」
「もちろん」