確かに、橘花が俺に好意を持っている可能性はあるだろう。そして、その腹いせに瑞希をイジメている理由もわかる。女って結構陰湿な所があるし、一度友情が崩れると、元通りにいかないっていうしね。
　つまり、瑞希は俺が取られると思って、彼女に協力しなかった。それを、橘花は不満に思っている。だからこそ、その報復として、瑞希をイジメ始めたんだろう。理由がわかると、本当に些細だ。連絡先を教えなかった。たったそれだけの理由で、クラス中から無視されるようになったんだよね。全く、酷い話だよ。
「健君。もしも、恵ちゃんに告白されたらどうする？」
「どうするって、そんなの決まってるだろ。断るよ」
「それは、今私と付き合ってるからだよね。じゃあさ、意地悪な質問するよ。例えば、私が健君に思いを言う前に、恵ちゃんに言い寄られていたら、健君どうした？」
　その問いは、俺を困らせた。
　俺が瑞希を好きだと感じたきっかけは、彼女の告白なんだ。あの告白を受けて、俺は瑞希が大切だなって思えたんだ。
　じゃあ、その前に橘花に告白されていたら、俺はどう答えただろう？
「多分だけど、付き合ってないよ。俺、橘花みたいな女苦手だし……」
「ホントに？」
「ホントだよ。俺は瑞希が好きだ。それでいいじゃないか」
「うん……」
　と、瑞希は答えたが、どこか不満そうでもある。俺、正直困惑。
　一体、何が不満なんだろう。俺は瑞希が好き。瑞希も俺が好き。なら、それが一番いいよね。だけど、瑞希はまだ何か、俺に求めようとしている。
「健君、ホントに私が好き？」
「好きだよ。何でそんなこと聞くんだよ」
「私がイジメられてるから、不憫だと思って付き合ってるとか？」
「そんなんじゃないよ。イジメは関係ないよ。まぁ、イジメは困った問題だけどな。でもさ、俺もお前がいれば、イジメを受けても大丈夫だよ。瑞希がそばに居るだけで、強くなれるような気がするから」
「な、ならさ、証拠……、証拠を見せて」
「証拠って何だよ」
「もぉ、私に言わせるつもり。好きって証拠を見せて欲しいの」
　好きの証拠……。
　それって何だろう？　否、愚問だな。
　俺は瑞希と付き合ってから、ただ一緒に居るだけだった。手も繋がないし、抱きしめたりもしていない。もちろん、キスだって。