だけどね。俺はそれが凄く嫌なんだ。そもそも、俺は瑞希が好きなのか? 改めて考えると、答えは出ない。何て言うのかな。俺と瑞希は、あまりにも近すぎる存在で、付き合うとか、付き合わないとか、そういう次元でモノを語れるような間柄ではないんだよね。
 だからさ、俺は瑞希をどう思っているのかわからない。それに、瑞希はとにかく俺にくっついて歩くんだ。これじゃまるでアヒルの親子だよ。
 冷やかされるのは嫌だ。それは思春期だから当然かもしれないよね。どうして、一緒に居るだけで、「夫婦」だなんて言われなければならないのだろう。それって結構面倒だよね。
 俺はかなり嫌がっているんだけど、瑞希はあまりダメージを受けていないようで、夫婦と呼ばれることに、嫌悪感を抱いているようには思えなかった。むしろ、好意的に受け入れているんだよ。それにも腹が立つよね。全く……。
「健君、一緒に帰ろ」
 授業と帰りのホームルームが終わると、瑞希が俺も前にやって来て、そんな風に言った。
「嫌だよ、今日は一人で帰れ」
「えぇぇぇ、どうして、いつも一緒なのに……」
「あのさ、俺、これ以上冷やかされるの嫌なんだ。お前だって嫌だろ?」
「冷やかしって?」
「だからさ、クラスの連中に夫婦って呼ばれることだよ」
 俺がそう言うと、瑞希はスッと顔を赤くさせる。こいつだって気づいているんだ。俺が嫌がっていることにね。
「私は別に気にしないけど」
「お前はそうでも、俺は気にするんだよ。第一、付き合ってるわけじゃないのに、どうしてそんな風に言われなくちゃならないんだ」
 俺はカバンを持ち、教室を飛び出した。
 その後を、瑞希は必死になって追ってくる。こいつは意外としつこいのだ……。
「ねぇ、一緒に帰ってもいいでしょ? ねぇねぇ」
「他の友達と帰ればいいだろ」
「んんん。私に友達がいないこと知ってる癖に……」
 そう。瑞希には友達がいない。
 こいつは少し天然というか、浮世離れしてるところがあって、周りから敬遠されているのだ。だからこそ、俺のそばをついてくるのかもしれない。
 じゃあ、俺が別の友達と帰ればいい。そんな風に考えるよね。確かに、瑞希と一緒に帰るのが嫌なら、別の友達と帰ればいい。それは事実だ。でもね、俺も瑞希と一緒で、友達なんていないんだよ。