「大切っていうか、可哀想だろ。皆に無視されて、靴とか隠されてさ」
「瑞希を助けたいのね?」
「うん。そうだよ」
「ならさ。あんたが瑞希と付き合うのを止めるっていうのなら、話を聞いてあげてもいいけど」
「だから、俺は瑞希とは何にも……」
「嘘言わないで。私にはわかるんだから。桐生君と瑞希は付き合ってる。学校ではあんまりそんな雰囲気を出さないけれど、放課後になれば一緒に居るじゃん」
「なぁ。仮に俺が瑞希と付き合っているとしたら、それが橘花さんに関係あるの? 俺が誰と付き合おうと関係ないでしょ」
「そ、それはそうかもしれないけど。とにかく、瑞希と付き合うのを止めるっていうのなら、瑞希を助けてあげてもいいよ。どうするの?」
 困ったな……。大いに困った。
 この橘花という女の子は、女の勘というか、鋭敏な感覚で、俺たちが付き合っているのを見抜いている。そして、その仲を引き裂こうとしているんだ。それは何故か?
 決まってる。読者の皆。これは俺の自惚れでも何でもないよ。第一、俺は橘花さんには負けるかもしれないけれど、勘は鋭いんだ。
 つまり、橘花さんは俺に何らかの好意をもっている。多分ね。だからこそ、瑞希をイジメて、挙句の果てに、俺たちの仲を引き裂こうとしているんだ。
 多分、俺が瑞希と付き合うのを止めるって言えば、この人は瑞希を救ってくれるかもしれない。だけどさ、俺はこのまま瑞希と付き合っていたいんだよね。誰にも邪魔されず、二人だけの世界を作り上げたい。
 かなり中二病臭いけれど、俺は絶賛恋愛中なんだ。その仲を引き裂かれたらたまらない。
 けれど。
 だけど。
 逆に考えれば、これはチャンスでもある。俺には瑞希を救えない。だけどさ、橘花さんには救える力がある。きっと、瑞希は辛いだろう。イジメから解放されれば、ホッと安心するはずなんだ。青春期という多感な時期を、イジメられて過ごすのは、物凄く可哀想だよね。できるのなら、俺はそれを助けたい。
 ならさ、ここは言うことを聞くべきなんだろうか? 俺が瑞希と付き合うのを止めれば、瑞希は救われる。まるで、踏み絵で信仰心を試されている気分だよ。
 はぁ、神様……。俺はどうすればいい? 
「嫌だって言ったら?」
「別に。私は何もしないけど。多分だけど、瑞希はハブられたままだろうね。それでもいいの?」