俺は口ごもる。
 俺は瑞希の告白を受け入れ、彼女と付き合っている。でもそれは、他人には言えない秘密なんだ。俺と瑞希だけの秘密。だからこそ、橘花に言うわけにはいかないと思っていたんだ。
「それは、何?」
「否、何でもない。付き合ってないよ」
「そう、ならいいけど」
「どうして、橘花さんがそんなこと心配するんだよ」
「べ、別にいいでしょ。それに、桐生君って瑞希のこと嫌がってなかった?」
「嫌がる? 俺が?」
「そう。何となくそう思ってたんだけど」
 確かに、俺はついこの間まで、瑞希を少しウザいと思っていた。それは事実だよ。でも、今は違うんだよね。まぁ、誤解されても仕方ないんだけど。
「夫婦とか言われるのが嫌だっただけだよ。でも、今はそんな風に思ってない」
「どうして?」
「どうしてって、だって俺はあいつの幼馴染だし」
「瑞希ってさぁ、今ハブられてるんじゃん。いい気味だと思わないの」
「いい気味……だと。橘花さん、何を言ってるの?」
「嫌がってた相手が、ハブられてるんだよ。よかったじゃん」
「よくないよ。なぁ、君の力で瑞希を救ってくれないか? あいつ、そんなに悪い奴じゃないんだ。確かに、少し天然でムカッとするところはあるかもしれないけれど、基本的に無害だし、皆と仲良くなりたいと思っているんだよ」
「は? それじゃまるで私がイジメてるみたいじゃん」
 そうじゃないのか?
 と、俺は言いたくなった。けれどね、ここでそんなことを言っても仕方ないよね。何しろ、橘花が瑞希をイジメているという、直接的な証拠はない。靴を隠している所を、目撃したとかなら話は分かるんだけど、今のところ、そんな情報はないのだ。
「瑞希を救ってくれないか?」
 俺は、必死にお願いする。
 というか、俺にはそれしかできないんだよね。俺の力はかなり微弱で、とてもではないけれど、瑞希を助けられない。でもさ、この橘花恵っていう女子生徒なら、瑞希を救える可能性があるんだ。こいつが裏で指示をしているのは間違いないだろう。だからこそ、こいつさえ、何とかすれば、瑞希へのイジメはなくなるような気がしたんだよね。
「そんなに瑞希が大切?」
 と、橘花さんは言った。
 同時に、鋭い目つきを俺に対して向けている。一体、どうしてこんな目で俺を見るんだろう。全く訳が分からないよ。