「うん。でも、学校で私に話しかけちゃダメだよ。そしたら健君まで酷い目に遭うから。だから、私たちがこうして付き合ってることは内緒。二人だけの秘密だよ」
「わかった。誰にも言わないよ」
「嬉しい……、じゃあ歌おう、付き合った記念に」
 俺たちは、その後カラオケを楽しんだ。瑞希はよく深夜アニメを見ているようで、俺の知らない歌を、次々にデンモクに入れて歌い始めた。この時、水樹奈々って歌手を始めて知ったよ。いい歌が多いね、全く……。

 俺と瑞希はこうして付き合い始めたんだ。しっかりとした男女の関係。そして、この関係は誰にも言わなかった。親にも言っていないよ。もちろん、学校の生徒にもね。それが約束だからね。
 瑞希は学校では基本的に無視されている。彼女は、クラスに入ると、「おはよう」と声をかけるのであるが、誰もそれに応えない。それに靴は隠される。教科書には悪戯書きされる。陰湿なイジメが続いたんだ。
 だけど、彼女は懸命にそれに耐えていた。俺は学校ではサポートできないけれど、学校が終われば、瑞希と一緒に色々な所で遊んだんだ。それは俺にとってもかけがえのない時間だったよ。これで瑞希へのイジメが無くなれば万々歳なんだけど、人生は上手くいかないよ。だけどね、俺は瑞希を支える。寄り添って歩いていけばいいんだ。
 そんな中、俺の前に一人に少女が現れる。それは、スクールカースト上位の存在。橘花恵だったんだよ。
「桐生君。ちょっといい?」
 ある休み時間、俺は橘花に呼び出される。俺は、橘花とあまり話したことがない。というよりも、全く違う人種だと思っているんだよ。そんな橘花が俺に話しかけてきたから、俺は少なからず警戒していた。
 俺が警戒した理由は、瑞希のことである。瑞希がイジメられるようになった原因を作ったのは、もしかしたらこいつかもしれないという憶測があったんだよ。つまり、橘花が裏で指示をして、瑞希を無視している。……と、俺は考えていたってわけ。
「何だよ?」
「いいから付いて来て」
 俺たちは休み時間の廊下で相対する。何というか、緊張感のある空気が流れる。
「ねぇ、桐生君って瑞希と付き合ってんの?」
「え?」
「瑞希と放課後一緒に遊んでるのを見た子がいるんだけど」
「俺と瑞希は幼馴染だから、一緒に帰ることはあるよ」
「じゃあ、付き合ってるわけじゃないのね」
「え、えっと、それは……」