About a girl

「そうだな。だけど、駅は小さいよ。地方都市の癖に」
「あはは、そんなこと言っちゃダメだよ。新潟はいい街だよ。雪が降るけど」
「まぁ俺もそう思うかな」
 ありふれた会話が、俺の心に突き刺される。
 こうしている間にもどんどん時が流れていくのだ。
「瑞希、婚姻届け出しに行けるかな?」
 婚姻届けは俺の欄は既に書いてあって、後は瑞希が書くだけだった。そして、その婚姻届けは彼女が持っている。最後の日に提出したいと瑞希が言ったからだ。
 役所は五時まで。
 マリンピア日本海も五時まで。
 十二時半にはマリンピア日本海に着くから、そこで二時間ほど過ごして、後は役所に向かう。最後の日だというのに、タイトなスケジュールだよね。
 でもさ、文句は言えないよ。
 既に賽は投げられている。後は進むだけなんだから。
 マリンピア日本海に着き、俺は瑞希の分のチケットを買う。中の様子はあまり変わっていない。高校時代に行ったペンギン広場は未だに健在だし、イルカショーもやっている。
 高校時代は、夕方に行ったからほとんど見て回れなかったけれど、今は幾分か余裕がある。色々見て回ろう。それはそう感じていたんだ。
「瑞希、どこを見たい?」
「う~ん、ペンギンかな」
「高校時代と一緒だな。瑞希、ペンギンが好きだったもんだ」
「だって可愛いじゃん、ペタペタ歩いてさ」
「わかった。ペンギンを見に行こう」
 今日は平日。
 しかも、行楽シーズンというわけではないので、マリンピア日本海は空いていた。まばらに人が入っているだけで、がらんとした印象である。
 俺たちは、ペンギン広場に向かった。
 ここは、あの時とは変わっていない。
 同じようなペンギンが、俺たちを出迎えてくれたんだよ。
「変わってないな」
「うん」
 俺は、そこで瑞希の顔を盗み見る。
 彼女は、嬉しそうにペンギンを見ていたよ。その顔は、高校生の時に見た時の笑顔と、何一つ変わっていなかったんだ。でも、内面は沈んでいる。もう、瑞希は長くない。
 今日、彼女は消える。
 この世界から、永遠に――。
 それはもう、変えようのない事実なんだ。超能力を使ったものの宿命。寿命が半分になってしまうのだ。瑞希は二回力を使ったから、寿命は半分の半分。あまりにも切ないよね。
「あのさ、ここでキスしたよね?」
 瑞希が少し恥ずかしそうに言った。