幼い頃の俺は、あいつに約束したんだ。守るって。なのに、それができない。なんて情けないんだろう。本当に自分が嫌になるよ。俺は、瑞希を大切だと思っている。だからこそ、こんなにも悲しいんだ。
 例えば、俺が瑞希を何とも思っていないのなら、彼女がイジメられているのをみても、きっと心は痛まない。あぁ、不幸だな。くらいしか考えないよね。でも、違うんだ。瑞希が堪らなく不憫だ。本当に可哀想だ。彼女が一体何をしたというのだろう?
 イジメのきっかけなんて、本当に些細なものなんだ。多分、瑞希がイジメられるようになった理由だって、そんな大きなものじゃない。あいつはかなり天然だから、そういうところが、人を嫌な気分にさせたかもしれない。でも、それって仕方ないよね。どの世界にもイジメっていうものはある。無くならないんだ。人が人である限り。
 放課後――。
 俺は瑞希と一緒に帰った。それくらいしか、できることがなかったんだよね。
 校門を出ると、瑞希は俺に向かって言った。
「健君。遊びに行こう」
「遊ぶってどこに?」
「どこでもいいよ。気分転換できる場所がいいな」
「とりあえず、駅前行くか。そして決めよう」
「うん」
 俺たちは、二人で駅前に向かう。夕暮れの新潟駅は、結構混雑していて、俺の気分を鬱屈とさせた。新潟は、地方都市だけど、かなりの人がいる。これが東京とか都心になったら、それこそ何十倍以上の人がいるんだろう。
 それだけの人間がこの国で生きている。それぞれの生活を送っている。それはわかっている。何となくだけど、俺はその中でも、結構不幸な部類に入るのではないかと思えたんだ。瑞希がイジメられるようになって、俺は、少しずつ世の中を憎むようになったってわけ。
「健君、カラオケ行かない?」
「カラオケ? あんまりキャラじゃないな。俺、歌下手だし」
「私も下手だよ。いいじゃん、たまには行ってみようよ」
「まぁ、お前が言うなら」
 この時、俺は瑞希の願いは叶えてあげたかったんだよね。だからさ、カラオケに行くのを承諾したんだよ。本当は嫌だけど、瑞希の喜ぶ顔が見られるのなら、それでいいと思えたんだ。
 新潟駅の前にはいくつかのカラオケがある。俺たちは、飲食店が立ち並ぶビルの中に入っている、ジョイサウンドというカラオケに入った。