入院して3週間が経ち、3日後に退院が決まった。

 でも、俺が今朝から浮足立っているのは、それが理由じゃない。 
 今日は日曜で、リハビリは休み。前日に想が出した問題をパーフェクトクリアし、今日だけは一日勉強を休める権利を勝ち取っていたからだ。
 しかも夜は近くで花火大会がある予定で、特別に屋上を夜間開放してくれるらしい。30分だけという時間制限つきで、屋上で花火を見ることも許可してもらっていた。


 昼間は、想のベッドに並んで寝っ転がって、親に持ってきてもらった互いの子供の頃のアルバムを眺めたり、他愛ない話をしたりして。夕食後、暗くなってから屋上へと上がった。俺は松葉杖、想は車椅子で。

 思ったよりも人はまばらだった。
 病室からも見えるから、わざわざ屋上まで上がって見ようという人間は少ないのかもしれない。
 夜でも、外はじっとり額に汗が滲んでくる程の蒸し暑さだし、冷房のきいた部屋から見るほうがいいのだろう。

「やっぱあちーな。体調悪くなったら、すぐに言うんだぞ」
「僕、体温低いから、暑くなったら僕に触ったらいいよ」

 そうする、と軽口を返しつつ、気分が落ち着かなくなる。本心を、見破られてる気がして。
 最近は、想といると、無性にくっつきたくなる。だから勉強していてふざけて顔を近づけたり、昼間、彼のベッドに寝転んでいたときも、彼の手を握ったりしたけど、嫌がられたことはなかった。


 思ったより距離があるようで、色とりどりの打上花火は、手を伸ばせば両手で掴めそうなくらいのサイズにしか見えなかった。音も、花火が消えた頃に遅れて届く。
 それでも、今まで見た中で一番綺麗だと思った。

 やがて、見物人が一人減り、二人減りして、屋上には俺達だけになった。

「なぁ。入院中は恋人として接してほしいって言ったの、あれまだ有効だよな?」

 え?とこちらを見上げた想の唇に……、俺は腰を屈めて、触れるだけのキスをした。

 誰かと付き合うのも初めてなら、もちろんキスも初めてだ。
 今が夜で良かったと思う。茹で蛸みたいに顔が赤くなっているだろうから。

「丈二、ありがとう」

 遠くの花火を見つめながら、想が言った。
 声が震えているようにも思えたけど、嫌がっている風には見えなかったから。俺はてっきり、彼も俺と同じ気持ちなのだと思っていた。