付き合って1週間が経過する頃には、検査やリハビリの時間以外ほとんど想と過ごすようになっていた。
遠慮会釈なくずけずけ物を言うやつだが、根が優しい彼の傍は居心地がいい。彼の言葉で語られると、フレミングの法則も二次方程式も日本の成り立ちも、文章の読み方や外国の言葉までもが面白いと思えるから不思議だ。
たまに体調が悪くて、カーテンを締め切ったまま想がベッドから出てこないときがある。そのときは俺も、自分のベッドで一人で自習するのだが、勉強していてもリハビリしていても、彼のことが気になって仕方なかった。
そういう日は大抵、夜も咳が続いて苦しそうにしている。それでも、夜間は看護師の数が少ないことを知っているから、よっぽどのことがないと彼はナースコールを押さない。
俺もどうせ心配で眠れないから、隣のベッドに忍び込んで、背中をさすってやったり、水を飲ませたりしていた。
ずっと気になっていたから、一度だけ、想に訊ねたことがある。義足をつけないのかと。
車椅子に乗るとき、彼はいつも腰から下に毛布をかけている。足の形に膨らんでいるのは右側だけで、左は太股の途中で段差ができて、そっから先は膨らみがない。下肢を切断したか、元々ないかのどちらかだった。
整形外科ではそういう人も珍しくない。義足を使って歩行練習をしている患者さんを見て、疑問に思ったのだ。なぜ、想は車椅子のままなのだろうと。右足はたまに俺の怪我してない方の脛を蹴ったりしていて、腰から下が麻痺しているわけではなさそうだったから。
彼は珍しく自分から視線を反らし、寂しさの滲む笑顔を浮かべて言った。
「そうだね。そろそろ僕も考えてみようかな」