想と俺は、恋人同士らしい。期間限定の。男同士だけど。
 「らしい」というのは、付き合って3日目で、自分でもまだ実感が湧いていないからだ。

 元プロライダーの親父の影響で、ポケバイから始めて、今はミニバイクに乗っている俺は、1週間前レースで転倒し、この病院に救急搬送された。右の下腿の2本ある骨のうち太い方が折れていて、手術で固定具(プレート)を入れて、今はリハビリ中だ。
 想は同じ病室でベッドが隣同士の、ちょっと、いや、かなり変わった少年だった。

 怪我をしたのが夏休み直前だったから、終業式には出ていない。3日前に担任が見舞いに来て、大量の宿題と、「入院中でも勉強頑張らないと、行く高校がなくなるぞ」という恐ろしい脅し文句を残して帰って行った。
 その直後、「ちょっと話してもいいか?」と隣から声がし、仕切りのカーテンが開いた。

 カーテンの隙間から現れた顔を見て、俺は驚いた。
 透き通るような色白の肌と削げた頬。眉毛がないところを見ると、布製の帽子を被っているその下も、おそらくそうなのだろう。
 見るからに病人風の患者は、整形外科病棟では珍しい。俺みたいに、骨や靭帯を負傷していても、見た目は健康そうな人間がほとんどだ。
 けれど、一番驚いたのはそこじゃない。彼の瞳の美しさだった。深く澄んだ二重の大きな目は、彼の病人然とした風貌を覆すほどの、強い光を放っていた。

 呆気にとられている俺に、彼は勝手に自己紹介を始めた。名前と同じ中3ってことと。入院が長いから暇を持て余してるってことと。
 そして最後に、彼はとんでもないことを言い出したのだ。

「君、勉強が苦手なのか?入院中、勉強を教えてやるかわりに、僕の恋人になってくれないか?」と――。