色白の美少年が、端正な顔にそぐわない深い皺を眉間に作って、隣の席から俺を睨んでくる。席といっても俺も彼も車椅子だから、テーブルの同じサイドに車椅子を二つ並べている状態。

「因数分解もわからないとは、1学期に何をやってたんだ?連立方程式に至っては、中2で習う内容だぞ」

 それが彼氏に対する態度か?と喉元まで出かかったけど、ぐっと飲み込んだ。1言い換えせば10言い返されることは、この3日間で学習済みだ。

「諏訪部君、諏訪部丈二(すわべじょうじ)君」

 背後から、俺を呼ぶ女性の声がする。朝食後、1時間近く数字と睨めっこして勉強に飽きていた俺は、助かったと思った。

「リハビリに行く時間よ」

 声をかけてきたのは看護助手だった。

「倉石君もそろそろ点滴交換なんじゃない?さっき看護師さんが準備してたから」
「大丈夫です。アラームが鳴るまでまだ20分あります」

 色白の美少年――倉石想(くらいしそう)が人当たりのよい笑みを浮かべる。点滴スタンドについたシリンジポンプを見て、点滴速度と残量から交換までの時間を即座に計算したのだろう。同じ中3でも頭の出来は俺とは雲泥の差だ。

「じゃあ、続きは午後だな」

 車椅子を後ろに下げ、器用にターンしながら言われて。「えー、午後もやるのかよ」と俺は抗議の声を上げた。