私が渡世のボディガードになってから、二週間が経った。ボディガードといってもなにか特別なことをするわけでもなく、ただ〝一緒にいられる時間は渡世と一緒に行動する〟ようになったというだけ。
そのせいか、私たちは小堀先生お決まりの雑用係を決めるじゃんけんをしなくなった。それは、頼まれごとをふたりで一緒にやるようになったからだ。結局戦績は0勝7敗で止まっている。
私と渡世が仲良くなったことに、クラスメイトは驚いていた。同時に茶化してきたり、私たちのことをおもしろそうに観察している。元々私と渡世は、クラスのどこのグループにも属していなかった者同士だ。余り者同士が一緒にいるようになったのは、収まるべきところに収まったとでも言うべきか。
〝朝倉、死にたくないなら、お前は俺を絶対に死なせるな〟
そんな脅しともとれる渡世の発言から、不思議な関係へと発展した私たちだが……この二週間行動を共にして、ミステリアスだった渡世のことが少しわかってきた。
好きな食べ物はハンバーグにオムライス。見た目は大人びていてクールなのに、子供に人気の定番料理が好きだなんてなんだかかわいらしいギャップだ。だけど、飲み物はお茶と水以外を飲んでいるところをほとんど見たことがない。……あ、この前ブラックコーヒーを自販機で買っていたっけ。飲み物はずいぶん大人なものを好むんだなぁ。
あと、渡世はよくどこか遠くを見ている。席に座っているとき、外を眺めていることが多い。ほかには――思ったより、よく笑う。大口を開けて笑うってよりは、小さく微笑むって感じだけど。渡世の上品な笑顔は、私は結構好きだったりする。
昼休み。
渡世と一緒にお弁当を食べるのが、私の日課になった。今日はふたりで屋上に行ってみることにした。午前中に雨が降っていたからか、ほかの生徒の姿は見られない。
私たちは濡れていない場所を探してそこに腰掛けると、誰もいない屋上でお互いにお弁当を広げた。広い屋上が貸し切り状態で、贅沢な気分だ。
ちらりと渡世のお弁当を見ると、今日も小さなお弁当箱におにぎりがひとつと小さなハンバーグ、ブロッコリー、卵焼き、うさぎ型に切られたりんごがぎゅうぎゅうに詰められていた。渡世は小食らしく、これでも量が多いと言っていた。
「……そういえば、五限目って体育だっけ。食べたあとに動くのって嫌だなぁ」
他愛もない話をして、私はウインナーを齧る。渡世は「そうだな」とひとこと呟くと、好物のハンバーグに箸をつけた。
「体育は男女別だから、私は事故が起きかけても守れないからね。気をつけてよ」
「大丈夫だ。俺、体育はいつも見学だから」
「えっ なんで?」
男女別だから、渡世が体育を見学していることを知らなかった。
「……ここだけの秘密にできるか?」
渡世は含みある言い方をして、そっと私の耳に唇を寄せる。……なんか、ドキドキしてきた。
「俺、体動かすの嫌いなんだ」
渡世の回答に、私は肩透かしをくらった。
「そんな理由で見学が許されるの?」
「特別にな。なんたって俺は未来透視ができる天才渡世全だから。普通の生徒とは扱いが違うんだ」
偉そうに、そして冗談交じりに渡世は笑う。
渡世が世界を飛び回るほどの霊能力者であることが本当なら、特別待遇されることも納得がいく。だけど――。
「ずるい! 私だって体動かすの好きじゃないから、体育なんてずっと見学してたいよ」
「だったらお前も、俺みたいに特別な高校生になるしかないな」
……なんの取柄もない私が、渡世みたいになれるわけないって知ってるくせに。
「はいはい。凡人高校生の私は大人しく体育の授業を受けますよ。……ていうか私、渡世のこと好きになる気配ないから、体育以外の時間も守る意味なくない?」
自慢げに言う渡世にイラッとして、おもわずそんなことを口走ってしまった。
「だったら見放せばいい。朝倉が嫌なら、一緒にいることを無理強いする気はない」
「べ、別に嫌ってことはないけど」
あっさりと引かれると、それはそれで違う。この時、我ながら自分のことをめんどくさいと思った。
「朝倉は、最近学校にいる以外の時間なにを考えてる?」
「えっ?」
唐突に渡世にそう聞かれ、少し考えたが、答えはすぐに出た。
「最近は……そりゃあ、渡世のことかな」
「へぇ。それはなんで?」
「だって、一緒にいない時間に渡世が危険な目に遭ってないかって、嫌でも気にしちゃうんだもん」
渡世の未来透視はまるで呪いのように、私の頭の中まで侵食していた。渡世は少し考え込むような素振りを見せて、私のほうに向きなおした。
「……恋愛の始まりって、朝倉はどこからだと思う?」
そしてまた、突拍子のない質問を私へとぶつけてきた。さっきより難しい質問に、私はあたふたとしてしまう。
そのせいか、私たちは小堀先生お決まりの雑用係を決めるじゃんけんをしなくなった。それは、頼まれごとをふたりで一緒にやるようになったからだ。結局戦績は0勝7敗で止まっている。
私と渡世が仲良くなったことに、クラスメイトは驚いていた。同時に茶化してきたり、私たちのことをおもしろそうに観察している。元々私と渡世は、クラスのどこのグループにも属していなかった者同士だ。余り者同士が一緒にいるようになったのは、収まるべきところに収まったとでも言うべきか。
〝朝倉、死にたくないなら、お前は俺を絶対に死なせるな〟
そんな脅しともとれる渡世の発言から、不思議な関係へと発展した私たちだが……この二週間行動を共にして、ミステリアスだった渡世のことが少しわかってきた。
好きな食べ物はハンバーグにオムライス。見た目は大人びていてクールなのに、子供に人気の定番料理が好きだなんてなんだかかわいらしいギャップだ。だけど、飲み物はお茶と水以外を飲んでいるところをほとんど見たことがない。……あ、この前ブラックコーヒーを自販機で買っていたっけ。飲み物はずいぶん大人なものを好むんだなぁ。
あと、渡世はよくどこか遠くを見ている。席に座っているとき、外を眺めていることが多い。ほかには――思ったより、よく笑う。大口を開けて笑うってよりは、小さく微笑むって感じだけど。渡世の上品な笑顔は、私は結構好きだったりする。
昼休み。
渡世と一緒にお弁当を食べるのが、私の日課になった。今日はふたりで屋上に行ってみることにした。午前中に雨が降っていたからか、ほかの生徒の姿は見られない。
私たちは濡れていない場所を探してそこに腰掛けると、誰もいない屋上でお互いにお弁当を広げた。広い屋上が貸し切り状態で、贅沢な気分だ。
ちらりと渡世のお弁当を見ると、今日も小さなお弁当箱におにぎりがひとつと小さなハンバーグ、ブロッコリー、卵焼き、うさぎ型に切られたりんごがぎゅうぎゅうに詰められていた。渡世は小食らしく、これでも量が多いと言っていた。
「……そういえば、五限目って体育だっけ。食べたあとに動くのって嫌だなぁ」
他愛もない話をして、私はウインナーを齧る。渡世は「そうだな」とひとこと呟くと、好物のハンバーグに箸をつけた。
「体育は男女別だから、私は事故が起きかけても守れないからね。気をつけてよ」
「大丈夫だ。俺、体育はいつも見学だから」
「えっ なんで?」
男女別だから、渡世が体育を見学していることを知らなかった。
「……ここだけの秘密にできるか?」
渡世は含みある言い方をして、そっと私の耳に唇を寄せる。……なんか、ドキドキしてきた。
「俺、体動かすの嫌いなんだ」
渡世の回答に、私は肩透かしをくらった。
「そんな理由で見学が許されるの?」
「特別にな。なんたって俺は未来透視ができる天才渡世全だから。普通の生徒とは扱いが違うんだ」
偉そうに、そして冗談交じりに渡世は笑う。
渡世が世界を飛び回るほどの霊能力者であることが本当なら、特別待遇されることも納得がいく。だけど――。
「ずるい! 私だって体動かすの好きじゃないから、体育なんてずっと見学してたいよ」
「だったらお前も、俺みたいに特別な高校生になるしかないな」
……なんの取柄もない私が、渡世みたいになれるわけないって知ってるくせに。
「はいはい。凡人高校生の私は大人しく体育の授業を受けますよ。……ていうか私、渡世のこと好きになる気配ないから、体育以外の時間も守る意味なくない?」
自慢げに言う渡世にイラッとして、おもわずそんなことを口走ってしまった。
「だったら見放せばいい。朝倉が嫌なら、一緒にいることを無理強いする気はない」
「べ、別に嫌ってことはないけど」
あっさりと引かれると、それはそれで違う。この時、我ながら自分のことをめんどくさいと思った。
「朝倉は、最近学校にいる以外の時間なにを考えてる?」
「えっ?」
唐突に渡世にそう聞かれ、少し考えたが、答えはすぐに出た。
「最近は……そりゃあ、渡世のことかな」
「へぇ。それはなんで?」
「だって、一緒にいない時間に渡世が危険な目に遭ってないかって、嫌でも気にしちゃうんだもん」
渡世の未来透視はまるで呪いのように、私の頭の中まで侵食していた。渡世は少し考え込むような素振りを見せて、私のほうに向きなおした。
「……恋愛の始まりって、朝倉はどこからだと思う?」
そしてまた、突拍子のない質問を私へとぶつけてきた。さっきより難しい質問に、私はあたふたとしてしまう。